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Rubyの父・まつもとゆきひろ氏が語る、若手エンジニアのキャリア論

あなたはエンジニアとして、社会でどのように生き残っていけばよいのか悩んではいませんか?

特に若手エンジニアにとって、今後のキャリア戦略は非常に大きな問題です。

「自分はどういう働き方がしたいのか」「自分はどのようなスキルを身につけたいのか」を常に考え、行動することが優れたプログラマーとして、揺るがないキャリアを築くことに繋がります。

今回は、プログラミング言語・Rubyの開発者であるまつもとゆきひろさんによる講演『若手エンジニアの生存戦略』のレポートをお届けします。

この記事を読むことで、あなたはエンジニアとして生き残るための戦略を自ら考え、今後のキャリアをしっかりと検討することができるようになるでしょう。

2017年5月20日、株式会社ドリコム セミナールームにて「Rubyの父」として知られるまつもとゆきひろさんを講師に迎えた特別講演『若手エンジニアの生存戦略』が開催されました。

主催は若手エンジニアのコミュニティサービスを運営するサポーターズCoLab
元々学生エンジニアの就活支援サービスを展開し、IT企業の就職率ではトップシェアを誇るサービスを運営していますが、この4月に社会人向けのサービスとして、サポーターズCoLabをスタートさせ、これまで100回以上の勉強会や、講演会を開催しています。

講演当日の客席は半数が学生、半数は社会人が占め、中には高校生の参加者もいるなど、幅広い層のエンジニアがサービスを利用している様子をうかがい知ることが出来ました。

2017年5月20日 【まつもとゆきひろ氏特別講演】若手エンジニアの生存戦略
会場:株式会社ドリコム セミナールーム

講師: まつもとゆきひろ
主催: 株式会社サポーターズ
特別協賛: 株式会社Speee
会場提供: 株式会社ドリコム

そもそも、Rubyとは?

Rubyは、まつもとさんが1995年に公開したプログラミング言語です。

便利さ・容易さと高い生産性を持ち合わせた、オープンソースのオブジェクト指向スクリプト言語であることが特徴です。

C言語をはじめとするコンパイラ言語は、プログラムの実行にコンパイルという作業が必要です。
スクリプト言語にはコンパイルが不要なため、より手軽でスピーディーな開発が可能です。

Rubyはエレガントな文法を持ち合わせており、プログラミングの楽しさと便利さ・実用性を体感するのに最も適した言語の一つといえます。

2012年には日本発のプログラミング言語として初めて国際規格「ISO/IEC 30170」に承認され、グローバルな言語として積極的に利用されています。

全ての人に共通する“生存戦略”は存在しない

まつもとさん:「下手すると、皆さんのご両親・親御さん世代のプログラマーの“大先輩”に当たるということになります」と若い参加者に向けて、語ったまつもとさん。

若手エンジニアが生き残るにはどうすれば良いのかというテーマに対しては即座に「死ななければいい」と明快な答えを示しました。

まつもとさん:「人生はスペランカーみたいなもので、あらゆるところにトラップが張り巡らされているわけです。“死の鎖”。これらからいかに逃れるのかというのは、非常に重要なわけです」

まつもとさんは、誰にでも当てはまる生存戦略は無いとも語ります。

まつもとさん:「何故かと言うと私たちは一人ひとり違うし、才能も違うし、興味のあることも違います」

成功者に共通する特徴とは?

まつもとさんはシリコンバレーでスタートアップを始め、成功した人物に比較的共通する特徴は「パターン認識能力」だと、とある研究結果を紹介しました。

スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツを自伝をくまなく読んだとしても、その人が“第二のスティーブ・ジョブズ”や“第二のビル・ゲイツ”になれる訳ではありません。

蝶が一匹羽ばたく程度の小さな誤差でも、その誤差が遠くの場所の気象に竜巻を起こすほど大きな影響を与えるという現象を「バタフライ効果」と呼びます。

“自分も成功したい”と先人の思考や行動を真似しても、生まれた国やビジネスを展開する上での条件は異なります。

全く同じ行動をしてもそうした誤差が存在する限りはバタフライ効果により、生じる結果はまるで違うものとなります。

まつもとさん:「つまり成功者の真似をして、彼らの成功条件を自分に適用してもそれは役に立たないんです」

まつもとさん:「私に、“Rubyが成功した秘訣はなんですか?”とインタビューしてくる人も居ます。私も質問には一生懸命答えるんですけど、Rubyを作り始めたのはもう25年も前のことなんですよね。25年前に自分が何を考えていたかなんて、全部は覚えてないわけです。立派なことを言っていたとしても、その時は大したことなんて考えてないんです。大分後付けだったりするんです」

過去の歴史は“そのまま真似する”のでは役に立たないことから、重要性が浮かび上がってくるのがパターン認識能力です。
つまり成功者が行ったことを“コピー”するのではなく、成功者に共通するパターンを抽出することが肝要だとまつもとさんは強調しました。

“Rubyの父”の学生時代とは

鳥取で育ったまつもとさんは、周りにプログラミング言語やコンピュータについて話す友人が居ない時期を過ごした後、高校を卒業。

進学した筑波大学ではコンピュータ・サイエンスを専攻したとのことです。
ただ10代の頃からプログラミング言語を作ることに関心を持っていたまつもとさんは、大学でもマイノリティーだったとのこと。

プログラミング言語の研究室に入った後は周囲がコンパイラの最適化などを研究する中、まつもとさんは新しいプログラミング言語を作るという卒業論文を書いたそうです。

我々の社会は、我慢に価値を見出す


満員電車での通勤といった例を挙げ、東京での就職に対し「明るい未来がイメージできなかった」まつもとさんは、“東京で我慢して働く”ことを選ばず、浜松の会社に就職を決めました。

200人居る同期の中、コンピュータ・サイエンスを専攻していた学生は6人のみ。
6人の同期は社内システムの開発に配属され、非常に重用されたとのこと。

まつもとさん:「最初に就職した浜松の会社は、全員スーツで出勤していたんですね。はじめのうちはあまり考えずにスーツで通っていたのですが、家は会社の寮で、オフィスまで歩いて五分だったんですよ。しかも、社内システムの開発なのでお客さんに会うことも無くて。何故スーツを着る必要があるのだろうかと、段々疑問が浮かんできたんです」

就職してから一年が経ったある日、社内掃除を行うために社員全員が汚れても良い軽装で出勤した際、まつもとさんは閃きます。

まつもとさん:「その翌日からも、自分だけはTシャツにジーンズで出勤しようと。すると、誰かが“なんだ、まつもと”と文句を言ってくるだろうから、その際に“この格好でも何の問題もないじゃないですか”と主張し、自分の権利を拡大しようという戦略を立てたんです」

しかし実際にTシャツとジーンズで出勤してみると、周りからは何も言われなかったそうです。
まつもとさんはこうした経験を踏まえた上で、無意味に「我慢すること」には価値がないこということを強調しました。

労働は我慢ではなく、バリューを作り出すこと

まつもとさんは“我慢の無意味さ”を裏付けるように、プログラミング言語・Perlの開発者であるラリー・ウォールが提唱する「プログラマーの三大美徳」を紹介しました。


ラリー・ウォールは、プログラマーの三大美徳として「怠惰」「短気」「傲慢」を掲げます。

例えば、「怠惰」とは一見するとポジティブな言葉ではありません。ともすれば「社会人」として問題視されそうな気質です。

まつもとさん:「あんまり良いイメージのある言葉では無いですよね?“美徳”と言うからには、反対なんじゃないの、という気もする。勤勉や寛容、謙遜。これだったら、美徳という感じがする。確かに、人間として接するときに傲慢な人と接するのと、そうでない人と接するのでは傲慢じゃないほうが良いですよね。ただ、プログラマーの美徳として考えるとどうか?……この“勤勉”というのは特に良くないですね」

プログラマーとはコンピュータに仕事をさせ、自らは少ない労力で成果を上げるためにコードを書く職業であるとも言えます。
「怠惰」「短気」「傲慢」の反対語である「勤勉」「寛容」「謙遜」も重要なことではありますが、それらが無意味な我慢や苦痛に繋がることをまつもとさんは問題視します。

まつもとさん:「特に勤勉を美徳とする人たち。他人が勤勉であることを重視する人たちというのは、結局は苦痛や労力を他人に押し付けているんです。それはいけない」「本当は皆も苦労しないで、僕も苦労しないというのが一番良いですよね」

まつもとさん:「報酬は、皆さんが感じる苦痛の対価じゃありません。皆さんが提供したバリューの対価が報酬なんです。大きなバリューを提供すれば、それを楽しんでやっていても良いんです。バリューを提供した人が報酬を貰うのは当たり前。周りの人が苦しんで仕事をしているからといって、皆さんまで一緒になって苦しむ必要はないんです」

組織の理不尽さに気付かないといけない

企業に属し、仕事をしていると人は「自分は会社に生かしてもらっている」「会社を辞めると、路頭に迷う」という感覚に陥りがちです。

企業と従業員の雇用関係は、従業員がバリューを提供することによって成り立つものです。
従業員が提供するバリューの対価が給与であるため、本来、企業と従業員は対等の関係です。

しかし「会社は私の主人」という強い刷り込みの悪影響から、しばしば人はバリューではなく組織の秩序や無意味なルールを優先するようになっていきます。


理不尽は、社会的な圧力となります。

まつもとさん:「社会的な圧力は目に見えないので、際限なく皆さんを苦しめます。それこそが最初に言った、“死の鎖”なんです。過労死に関する話も、よく耳にします。彼等は社会的な圧力の、ある意味では犠牲者なんですね。健康を犠牲にして働く。我慢を続けていると、段々と我慢に対して鈍感になってくるんです。最初は一時間残業していたものが、月20時間の残業になる。段々耐える時間が増してきて、40時間・80時間・160時間の残業になる。「あー、仕事したなあ」と耐えることに鈍感になっても、致死量は変わらないんです。人間には生物学的な限界があります。耐えている内に、死なないにしても具合が悪くなる。もっと前の段階で気がつくことは出来なかったのか……、怖いですよね」

皆がやらないけれど、本当はやっても良い「裏ワザ」を使う

企業にも従業員にも思い込みが蔓延しているということは、「皆がやっていないけれど、本当はやってもいいこと」が沢山あるということでもあります。

まつもとさん:「スーツで出勤しなくてはいけないと皆、思い込んでいたけれど本当はTシャツとジーンズでも良かった。そういう具合に、皆はやらないけれど本当はやってもいいことというのは沢山あるんですね。そういうことを、何というか知っていますか?……裏ワザと言うんです」

まつもとさん:「裏ワザを使って、ゲームをクリアすると中には“ズルい”という人も居るかもしれません。でも、大抵は“俺にもやり方教えて”となると思います。裏ワザを知っている人はヒーローです。裏ワザを使って少ない労力でゲームをクリアできるなら、それは良いことですよね。少ない苦痛で、出来れば苦痛はゼロで、成果を上げる。そのために何をすべきかと言うと、空気を読まない(笑)」

IT系スタートアップは、本質に注力した働き方がしやすい


まつもとさん:「企業は本質的な目的と、組織の秩序を維持するといった本質的では無い目的を混同してしまうことがあります。他の人が本質的では無いことに時間や労力を割いている間に、本質的な目的に注力すると成果を上げることが出来る。これは日本の企業特有の問題かと思っていたら、海外でも似たようなことはあるみたいなんですね。“Don’t work hard,Work Smart”という言葉があります。つまり、一生懸命に働くのではなく賢く働きなさいと。多少の文化の違いはあっても、人間が集まると、日本でもアメリカでも大変だと感じます」

まつもとさん:「こうした方が本質的な問題に注力できるじゃないですか、と提案をすると、話が通じる人というのは確かにいます。でも、中には全く通じない人というのも居るんですね。話が通じない人が組織の上の方に居たらどうするか。もう“組織を変わっても良いんじゃないか”と思うんです」

まつもとさん:「IT系のスタートアップは、組織の秩序を維持すると言った本質的ではない目的に注力している余裕は無いんですね。だからこそ、話せば分かる可能性というのは高まるんです。本質的なことに価値を見出した働き方をしたいという考え方に共感する企業は、IT系のスタートアップにはかなり多い。そういう企業を探すというのは、大事なことだと思いますね」

「Win-Win」か「No deal」の二択だけを意識する

良い関係とは「リスペクトし合える関係」「対等な関係」だと、まつもとさんは語りました。

しかし「お前は俺の部下なんだから、俺の言うことを聞け」という上司が組織に居るケースは、少なくありません。
エンジニアとクライアントの関係も同様です。
ソフトウェア開発の現場でも「こちらの言うとおりにソフトを作れ」というスタンスのクライアントは多いとのことです。

そうした上司と部下、或いは組織間の関係には対立構造が発生します。

まつもとさんは「二人のプレイヤーが居て、勝者・敗者が居る場合の組み合わせ」として以下の四つを挙げました。

・Win-Win
・Win-Lose
・Lose-Win
・Lose-Lose

Win-Winの関係が成り立たない場合には、片方のプレイヤーは取引からデメリットを被ることになります。
「片方が勝って、片方が負けるという取引は永続しないですね。それなら、そもそも取引しないほうが良いわけです」

まつもとさんは新たな選択肢として「取引しない。No Deal」という項目を挙げ、選択肢を「Win-Win」と「No Deal」の二つに絞りました。
Win-Win(お互いにバリューを得られる)か、No Deal(取引しない)の二通りを明確に意識することが、まつもとさんが“死の鎖”と形容する理不尽さや無意味なルールから逃れる手段となります。

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Kazuto Seki Kazuto Seki
音楽ライターとしてエイベックス、ビクター、トイズファクトリー等に所属するアーティストの取材を担当。2016年に開催された『Bjork Digital』の取材経験から、VR×音楽に関心を抱く。2017年よりテクノロジーに関するライティングを開始し、TECH::NOTEにジョイン。猫とウサギを飼っています。
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