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“宇宙にも宅配便を” MOMO3号機と新型ロケットZEROで拓く、宇宙ビジネスの未来「失敗も苦難も、全て夢へのプロセスだ」

更新: 2019.11.08

2018年6月30日、北海道大樹町。高度100kmの宇宙空間を目指す観測ロケット「MOMO2号機」の打ち上げ実験が実施されたことは記憶に新しい。しかし、結果は……数秒間の飛行後、そのまま地面へと落下、そして炎上。残念ながら、17年夏に行われた「MOMO初号機」の打ち上げに続き、実験は失敗に終わった。

「日本初の商業宇宙ロケット開発を目指す」この壮大なプロジェクトを進めるのが、ホリエモンこと、堀江貴文氏が出資する宇宙ベンチャー企業、インターステラテクノロジズ。そして、同社の現場を指揮するのが、代表取締役社長兼エンジニアの稲川貴大氏だ。

大学時代には鳥人間コンテストやロケット作りに熱中し、大手企業の内定が決まっていたものの堀江氏から口説かれ、内定を蹴って宇宙ベンチャーに入社した。

今回は、堀江氏にも一目置かれる存在の稲川氏に、宇宙ビジネスに掛ける想いを伺った。また、宇宙領域の専門性がないエンジニアが、未だ「一部の選ばれた人たちだけのもの」というイメージが根強い宇宙業界に入るには、どうすればいいのか聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

<プロフィール>
インターステラテクノロジズ株式会社 代表取締役社長 稲川貴大氏
大学院卒業後、大手光学メーカーへの入社を直前で辞退し、ロケット開発を手掛けるベンチャー企業インターステラテクノロジズへ入社。2014年に代表取締役社長に就任

打ち上げ失敗も、あくまで「実験」。 僕は、“全然めげてない”

“宇宙にも宅配便を” MOMO3号機と新型ロケットZEROで拓く、宇宙ビジネスの未来「失敗も苦難も、全て夢へのプロセスだ」

MOMO2号機の打ち上げ失敗は残念でしたが、これは、あくまで「実験」。

収穫もたくさんありました。失敗に終わった原因も特定でき、すでにMOMO3号機の打ち上げ実験に向けたクラウドファンディングも実施、改良にも着手しています。次こそは目標である「100km」まで、MOMOを飛ばしたいですね。

でも、このロケットが宇宙空間に飛び立って終わりかと言われたら、そうではないんです。僕たちのゴールは、あくまで「宇宙への宅配便」となる「輸送サービス」をつくること。そのためには、現状、年に3~4回程度しかないロケットの打ち上げ頻度を上げ、100億円ほどかかる開発費用を最小限に抑えたロケットを開発する必要があります。そして、宇宙空間に「安くて高頻度な輸送手段」としての、ロケットを使った新しいインフラをつくりたいと思っているんです。

そこで僕たちは今、MOMO3号機と並行して、新しいロケットの開発もしています。開発コードネームは『ZERO』。エンジンを新しく作るところから始めていて、まさに今、設計、製造中です。MOMOは「宇宙空間にロケットを飛ばす」ことを目的とした「観測ロケット」。宇宙空間に出たとしても、すぐ地球に戻って来るんです。

一方、新型ロケットZEROは「超小型の人工衛星を軌道に投入するためのロケット」。地球の周りをぐるぐると回り続けます。今、小型の人工衛星を作ることは世界的に、すごく流行っているということもあるんですが、ZEROの開発がうまくいけば、僕たちが目指す、「宇宙への宅配便」を作ることに繋がるんですよ。

ZEROを飛ばすためには、MOMOの機体よりも効率よく速度を出すことが求められるため、ロケット自体を大きくする必要がありました。だから、ZEROの機体はMOMOの約2倍となる全長約18mで、太さも約4倍の2m弱。また、エンジンもMOMOとは根本から変わっていて、大きく改良しています。

これからのメインビジネスにすることも想定し、2020年頃の打ち上げを目標にZEROの開発に注力していますが、そこで重要になるのがそれを一緒にやる仲間たちです。

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ヒト・モノ・カネ…… “ないない尽くし”だから、宇宙ベンチャーにはロマンがある

“宇宙にも宅配便を” MOMO3号機と新型ロケットZEROで拓く、宇宙ビジネスの未来「失敗も苦難も、全て夢へのプロセスだ」

宇宙開発って、今までだったら、「一部の選ばれた人たちだけのもの」って思われがちでしたよね。NASAやJAXAなどの国の開発機関に入るか、ロケット開発をしている大企業に入るかという。それぐらい宇宙開発に関わることは、狭き門だと考えられていました。

でも、今は状況が一変しています。ご存知の通り、民間企業が続々と宇宙ビジネスに参入していて、僕たちみたいなベンチャー企業も生まれている。僕らはロケット作りに必要な機材や部品を秋葉原の電気街や、『ヤフオク!』のようなネットオークションで買って使っていますが、それくらいロケット作りのハードルは下がっているとも言えます。

ただ、宇宙産業はまだまだ創生期。ヒト、モノ、カネ、全部が“ないない尽くし”です。資金面の課題は常にありますし、技術面での難しさもある。例えば、宇宙空間でモノを働かせるって、とても骨の折れることなんですよ。でも、自分は技術者なので、「極限状態のものを動かす」「設計して検証していく」という技術的なチャレンジは、簡単じゃないからこそ面白いと思うんですよね。それに、“ないない尽くし”の状況から事業を大きくしていくことに、すごくロマンを感じます。

以前、今の宇宙産業の状況って、「IT業界の夜明け前に似ている」って、うちのファウンダーである堀江が言っていたんですよ。ITバブルの走りを経験した彼だけに、この言葉にはすごく説得力があるなって。IT業界も、最初は得体の知れないものだと思われていたし、その時は誰も転職しようと思わなかったらしいんです。でも、今では、「イケてる人ほどIT業界に行く」、みたいな風潮がありますよね。いずれは、宇宙業界もそんな風になるのではないかと。政府もこの産業に積極的に投資を図ることを宣言しています。

それに、アメリカでは既に数々の宇宙ベンチャーが立ち上がっていますし、イーロン・マスク率いるスペースX社みたいな軌道に乗っている企業も出てきて、宇宙ビジネスは世界的に盛り上がりを見せています。日本の宇宙産業の市場規模(JAXAの予算)は年間2000億円~3000億円と言われていますが、アメリカはその10倍から20倍と言われているほど発展している。だから、日本もうまくやれば必ず、伸びる分野だと思っています。

うちのエンジニアは、ロケットの「素人」がほとんど。でも、“ホリエモン”がいるから、なんとかなる

“宇宙にも宅配便を” MOMO3号機と新型ロケットZEROで拓く、宇宙ビジネスの未来「失敗も苦難も、全て夢へのプロセスだ」

堀江が言うように、宇宙業界もかつてのIT業界のように、今後すごい勢いで発展していくと僕も思っていますが、現状はやはり人手が不足しています。インターステラテクノロジズのメンバーも、宇宙産業の経験者はほとんどいなくて、異業種から参入してきたメンバーがほとんど。プラント屋さん、造船会社、銀行、大手電気メーカー、フリーのプログラマー、国家公務員など、前職は本当にバラバラです。

ただ、共通しているのは、モノづくりが大好きなメンバーが揃っているということ。うちのエンジニアは、現場感をすごく大事にするし、自分で手を動かすことが好きな人ばかりなんです。「会社で資料作りをしているだけで、エンジニアを名乗ってるのはヤバイよね」って転職組がよく言っています。

また、何かと話題の堀江とは、本当に「仲間」という感じで関わらせてもらっています。僕たちは、Slack(ビジネス版チャットツール)を使っていて、プロジェクトごとに色んなチャンネルがあるんですけど、堀江もそこでのやり取りをほとんど見ていますね。それで、気になったことがあれば、逐一コメントをくれるんです。技術面で困っているときは、堀江の紹介で人を繋いでもらったりもしていて、顔の広さを実感しています。そうやって、プロジェクトをグイグイ引っ張ってくれるんですよね。たまに、このすごいスピード感に、現場が追いつかないこともありますが……(笑)。

こうして堀江と一緒に仕事を一緒にしてみると、世間の抱いている「ホリエモン像」はいい意味で裏切られます。直接会ってみると、腰は低くて丁寧ですし。また、決断力もあり、本当に頭が切れる人。しかも、言うだけではなく、すぐに行動して、仕事もバンバン決めてくる。なるほど、「多動力」ってこのことなんだって、思い知らされますね(笑)。

大事なのは「今、何のプロ」か。伸び代しかない“この時期”を味わい尽くそう

“宇宙にも宅配便を” MOMO3号機と新型ロケットZEROで拓く、宇宙ビジネスの未来「失敗も苦難も、全て夢へのプロセスだ」

先ほど、うちにはモノづくりが大好きなメンバーが集まっているという話をしましたが、加えて言うなら、何かの分野のプロであることも共通していると思います。宇宙やロケットに関しての知識は二の次でいい。エンジニアだったら、プログラミングで胸を張って「プロだ」と言えるかどうかの方が大事です。

また、僕たちのような小さなベンチャー企業では日々試行錯誤の連続で、やることも広域に及ぶので、フレキシブルさがあるかどうかも重視します。「僕はこれしかできません」と境界線を引いてしまう方よりは、専門性や強みを持ちつつ、守備範囲広くできる人の方が、この業界では活躍できると思いますね。

先述したように、宇宙産業は伸び代が大きな領域。むしろ可能性しかない。この“始まりの場所”に身を置く「うま味」を挙げるなら、同業他社で働く人々とも横のつながりを持ちながら、業界・企業の成長を一から十まで見届けられるところ。そこに魅力を感じる人は、「今、何のプロか」ということを自問自答しつつ、その専門性を磨いていくことが夢へと近づく第一歩になると思います。あとは、思い切って飛び込んできてほしい。一緒にこの業界を盛り上げてくれる仲間が増えていくと、嬉しいですね。

取材・文/青野祐治 撮影/赤松洋太

こちらの記事はエンジニアtypeのコンテンツから転載しております。元記事はこちら

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この記事を書いた人

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