2020年に小学校からプログラミング教育必修化が検討されていましたが、ついに決定となりました。どのように学校教育が変わるのか気になっている方もいると思います。そこで今回は、プログラミング教育必修化の動向について解説します。
この記事を読むことで、プログラミング教育の現状や必修化の目的・内容について理解できるでしょう。
この記事の目次
なぜ今プログラミング教育が取り上げられるようになったのか?
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プログラミング教育とは、文部科学省によると「子供たちに、コンピュータに意図した処理を行うように指示することができるということを体験させながら、将来どのような職業に就くとしても、 時代を超えて普遍的に求められる力としての『プログラミング的思考』などを育成するもの」とされています。
では、なぜ今プログラミング教育が取り上げられるようになったのでしょうか。
プログラミング教育必修化の背景
国がプログラミング教育を必修化した理由には、様々な背景があります。いくつかの資料からその理由を探ってみましょう。
日本経済再生本部が発表した日本再興戦略 2016において、ITを活用したそれぞれに合わせたアダプティブ・ラーニングや小・中・高校でプログラミング教育の必修化など、IT人材の育成を徹底するため、学習指導要領の見直しを行うことが発表されました。
ここでは、その理由として第4次産業革命について触れられています。
(第4次産業革命と有望成長市場の創出)
今後の生産性革命を主導する最大の鍵は、IoT(Internet of Things)、 ビッグデータ、人工知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する「第4次産業革命」である。
「第4次産業革命」は、社会的課題を解決し、消費者の潜在的ニーズを 呼び起こす、新たなビジネスを創出する。一方で、既存の社会システム、 産業構造、就業構造を一変させる可能性がある。既存の枠組みを果敢に転換して、世界に先駆けて社会課題を解決するビジネスを生み出すのか。それとも、これまでの延長線上で、海外のプラットフォームの下請けとなるのか。第4次産業革命は、人口減少問題に打ち勝つチャンスである一方で、 中間層が崩壊するピンチにもなり得るものである。
引用元:日本再興戦略 2016
日本では少子化や人口減少が大きな問題となる中、IT技術を活用すれば問題も解決でき、新たなビジネスチャンスも生まれうると考えられています。
(イノベーションと人材の強化)
第4次産業革命を実現する鍵は、オープンイノベーションと人材である。 技術の予見が難しい中、もはや「自前主義」に限界があることは明白であ る。既存の産学官の枠やシステムを超え、世界からトップレベルの人材、 技術、資本を引き付ける魅力ある国となれるのか、が勝敗を分けるポイン トである。
(中略)
第4次産業革命の波は、若者に「社会を変え、世界で活躍する」チャン スを与えるものである。日本の若者が第4次産業革命時代を生き抜き、主 導できるよう、プログラミング教育を必修化するとともに、IT を活用して 理解度に応じた個別化学習を導入する。(一部抜粋)
引用元:日本再興戦略 2016
このように、先進国の中でも高齢化の進む日本で、各国とのビジネス競争に打ち勝ち、第4次産業革命時代を若者が生き抜くためには、IT技術を身につけることが必要不可欠であると考えられてます。
プログラミング教育の必修化は、小学校だけではありません。
このプログラミング教育の必修化などが含まれる新しい学習指導要領の実施は、小学校では2020年、中学校では2021年、高等学校では2022年から行われます。
また、経済産業省が発表したIT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果によると、前述したようにIT市場規模は今後拡大し続けていくにも関わらず、2030年には最大で79万人もの人材不足となると予想されています。
このような背景もあり、プログラミング教育必修化へと動きはじめているのです。
国のプログラミング教育最新動向については、未来の学びコンソーシアム | ニーズに応じた教材開発及び学校支援をぜひチェックしてみてください。
プログラミング教育の現状
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では現状、プログラミング教育はどの程度行われているのか、確認してみましょう。
小学校
小学校の情報教育では、プログラミング教育は実施されていません。
小学校学習指導要領では、国語・社会・算数をはじめとした各教科で、情報の整理・収集・発信を通してコンピューターの基本的なスキルを身につけることを目標としています。
また、インターネットを利用する際の情報モラルについても指導を行い、インターネットを適切に活用するためのリテラシーの教育が行われています。
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中学校
中学校学習指導要領では技術・家庭科の「情報とコンピュータ」という授業で、インターネットを活用する基礎や情報モラルについて学習を行います。
そして、プログラミング教育としては「プログラムによる計測・制御」を学ぶために、コンピューターを利用した計測・制御の基礎と情報処理の手順を考え、簡単なプログラミングの学習を行います。
この「プログラムによる計測・制御」に関する学習は、2012年に学習指導要領が新しくなり、中学校でプログラミング教育は必修科目になりました。
しかし、簡単なプログラミングというのがどの程度のものをさすか曖昧で、教師の力量によるところが大きくなります。
また、さらに中学校3年間で数時間のみの授業というのが中学校のプログラミング教育の現状です。
高等学校
高等学校では情報教育の授業は「社会と情報」と「情報の科学」からの選択になります。
「社会と情報」では、情報とは何かということからはじまり、IT社会におけるコミュニケーションや、IT技術の進歩による社会への影響などを学びます。
「社会と情報」という名前の通り、技術的な事柄よりもITにより変化していく社会について学ぶといった内容です。
一方、「情報の科学」は「情報社会の発展に主体的に寄与する能力と態度を育てる」ことを目標としており、プログラミング・データベース・モデル化とシミュレーションといった内容について学びます。
プログラムがプログラミングによってできていることや、プログラミングとはどういったものかを理解することを目指しています。
このように、プログラミング教育を受けられるのは「情報の科学」を選択した生徒のみで、情報教育に関連する資料 によるとその履修率は2割程度となります。
プログラミング必修化の目的
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文部科学省が発表した小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)によると、プログラミング教育はコーディングを学ぶことではなく、「プログラミング的思考」を身につけることを目的としてます。
コーディングとは、プログラミング言語でコンピューターが処理できるプログラム(ソースコード)を作成することです。
IT人材は今後不足していくと前述しましたが、人材育成は直接的な目的ではありません。この点については、そのような誤解が広がりつつある旨を国も認識しています。
私たちは現在社会でIT技術=プログラムの恩恵を受けており、これらは便利な「魔法の箱」ではなく、人間によってプログラミングを通して意図的に処理できると理解していくことが時代の流れとしています。
プログラミング的思考を育てる
プログラミング的思考とは「自分が求めることを実現するために、必要な動作や記号、またそれらの組み合わせを考え、どのように改善すればより意図したものに近くのかを考える論理的思考」のことです。
IT関連の仕事以外には必要ないと考えていないでしょうか。
これからも私たちの生活には、IT技術がいろいろな場面で活用され続けるはずです。
たとえば、数十年前まで無かったPCやスマートフォンは、今では当たり前のものとなり、ビジネスにおいても必要不可欠なものとなりました。
同様に様々な職種や業界においても、プログラミング的思考も必要不可欠なものとなっていくでしょう。
IT技術が浸透していく社会において、「プログラミング的思考」は身につけるべきリテラシーです。
こういった21世紀のIT社会に適した能力の開発を目指し、プログラミング教育の必修化は進められています。
目指す資質や能力
プログラミング教育を通して、育成すべき資質や能力は、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」とされています。
- 【知識・技能】 ・・・身近な生活でコンピュータが活用されていることや、問題の解決には必要な手順があることに気付くこと。
- 【思考力・判断力・表現力等】・・・発達の段階に即して、「プログラミング的思考」を育成すること。
- 【学びに向かう力・人間性等】・・・発達の段階に即して、コンピュータの働きを、よりよい人生や社会づくりに生かそう とする態度を涵養すること。
今まで触れる機会が少なかったプログラミングを知ることで、仕組みを理解し、コンピュータでもモノづくりができる発想をもつことが大切となります。
また、IT技術を受身ではなく、能動的に使えるようになることが必要でしょう。
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海外のプログラミング教育
では、海外のプログラミング教育はどの程度なのでしょうか?
「諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究」報告書(平成26年度)を参考に、主に初等教育に注目してみましょう。
調査結果によると、日本の小学校にあたる段階では、すでに英国・ハンガリー・ロシアが必修科目としています。
・英国(イングランド)
アルゴリズム理解やプログラミング言語学習を取り入れた教科「Computing」を2014年より導入し、初等および中等教育で必修科目になっています。
教材は主にビジュアルプログラミングScratchを使用していて、基本的にテキストブックは使用していません。
初等教育で専門的な指導者はおらず、必要なのは教員免許のみです。
・米国(カリフォルニア州)
各学校の裁量によってプログラミング教育が導入されています。
現状、カリフォルニア州政府としては未導入ですが、今後コンピュータサイエンス教育の導入が検討されています。
また、各地ではハイスクールの卒業科目にコンピュータサイエンス含める動きがあります。
プログラミング言語はJava・ Visual Basic・C++ を中心とし、教材は指導者に任されています。学校によっては専任指導者がおり、指導者用にワークショップも開かれています。
・韓国
現在、中学で必修、高等学校で選択科目としてプログラミング教育が行われています。
今後、初等教育ではICT教育のみに留まっていますが、今後の導入が検討されています。教材は中学ではScratch、高等学校ではpythonが採用され、教科担当制で指導されています。
どんな授業になる?
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では、プログラミング教育は具体的にどのような授業を行うのでしょうか。発表されている資料から、考えてみましょう。
授業の方針
前述した小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)等によると、プログラミング教育が導入されるといっても、専門教科が新設されるわけではありません。
プログラミング教育を行う単元については、どの教科内で含めるのか、どんな内容を実施するのか、各学校の裁量で決められます。
実施例として、次のように示されています。
・総合的な学習の時間
自分の暮らしとプログラミングとの関係を考え、そのよさに気付く学び
・理科
電気製品にはプログラムが活用され条件に応じて動作していることに気付く学び
・算数
図の作成において、プログラミング的思考と数学的な思考の関係やよさに気付く学び
・音楽
創作用のICTツールを活用しながら、音の長さや高さの組合せなどを試行錯誤し、音楽をつくる学び
・図画工作
表現しているものを、プログラミングを通じて動かすことにより、新たな発想や構想を生み出す学び
・特別活動
クラブ活動において実施
さらに詳細な学習内容については、これから議論されるとみられています。
また、文部科学省ではプログラミング教育実践ガイド|学校教育分野|教育の情報化において、小学校〜高等学校までの具体的な授業実施ガイドが紹介されています。
こちらでは生活科や図画工作、総合的な時間にプログラミング教育が行われています。
本格的なコードを書くよりも、パズルを組み合わせるようにプログラムを作るビジュアルプログラミングや同様にロボットの動きを考えるなど、視覚的に理解しやすい教材を採用しています。
また、このような授業を通して、次のような変化が見られたと報告されています。
小学校
・自ら物事を順序立てて考えられるようになった。論理的に説明できるようになった。
・自分にもコンピュータを動かせるという自信を持つようになった。
・英語を使ったプログラミングによって,英語とプログラミングがつながるようになった。 など
このように、意欲的に取り組める課題を用意し、コンピュータは意図的に動かせる、さらにそれを発展・改良できると感じられることが大切となるでしょう。
企業による実施例
総務省では、効果的な実施手法や指導者の育成方法を全国に普及させるために、「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」事業が行われてきました。
実施モデルとして、企業・NPOにより教育クラウド・プラットフォームを利用して教材を用意、講師を各地域に派遣して指導者の育成を行い、その指導者により、小・中・高校生向けプログラミング講座を実施するとあります。
この実施モデルを実証するために公募を行い、民間企業による授業が行われました。
その内容は、全国の教育現場に共有するためのサイト「若年層に対するプログラミング教育の普及推進報告2017」で紹介されています。
・東京都
江崎グリコ株式会社を提案主体者として、グーグル株式会社と株式会社電通が参画パートナーとなり、小金井市立前原小学校 にて「小学校低学年向け異次元プログラミング体験と普及活動」の実証が行われました。
この実証には、江崎グリコ株式会社が独自に開発した「GLICODE(グリコード)」が使われました。
本物のお菓子を組み合わせてプログラムを作成するので、子供たちは意欲的に取り組める教材となっています。
また、身近な素材を通して手を動かしながら学習でき、集中して取り組めたと報告されています。
・大阪府
西日本電信電話株式会社を提案主体者として、キャスタリア株式会社が参画パートナーとなり、寝屋川市立石津小学校にて「ものづくりDNA継承型プログラミング教育」の実証が行われました。
近隣の学生をメンターと呼ばれる指導者として育成し、ロボットプログラミング講座が実施されました。
ロボットを使った授業実施例としてだけでなく、指導者はどのように学習・育成すればよいのかという根本的な課題解決のモデルとして参考になるでしょう。
このように、国と企業・NPOなどが協力し、子供たちが楽しんでプログラミングの面白さ・仕組みに触れられるように、プログラミング教育の普及推進は行わていくと予想されます。
必修化に対する課題や反応
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ここでは、必修化に伴う教育現場での課題や保護者の反応について紹介します。
指導はどうなる?
プログラミング教育を行う単元は、各学校の裁量に任せて決定されると前述しました。この点について、学習のレベルや時間に各学校によって差が出るのではないかと懸念されています。
しかし、さらに詳細についてはこれから議論されると考えられているので、詳しい指導要領が発表されないとわからない状況です。
この他にも、指導側の課題として次のことが挙げられます。
・授業時間の確保
・研修制度の確立、研修時間・指導人材の確保
既存の授業と折り合いをつけて導入するので、今までと同様の時間内に新たな学習内容を入れ込む形となります。
今までの学びを大切にしつつ、プログラミング教育を行うには試行錯誤が必要となるでしょう。
また、研修制度の課題もありますが、それよりも研修や授業研究時間が確保できるのか?という点が大きな課題です。
現時点でも、教師は長時間労働する状況が深刻化しており、問題視されています。
さらにタブレットやWiFi、サーバーなどの環境面を整えるだけでなく、それを正しく使える担当者も必要になります。
ICT教育によって以前よりは環境が整ってきているとはいえ、十分ではないでしょう。
このように、現状の教育現場ではプログラミング教育において様々な課題が残っています。
保護者の反応
習い事をしている小学生の母親553名を対象に、株式会社ジャストシステムが行った「小学生のプログラミング学習調査」(2016年7月)では、次のような結果が出ています。
・小学校における2020年からのプログラミング教育必修化に対する意見
出典:プログラミング必修化、約半数「賛成」…小1-4年生の10人に1人は習い中
プログラミング教育必修化について、賛成が46.5%、反対が7.4%と回答、半数近くが賛成と回答しています。
賛成の理由としては、「進化するIT社会で必要とされるスキルが身につくから」「将来の職業選択肢が増えるきっかけになるから」などの理由が多くみられました。
また、プログラミング教室に通う子どもは、小学1〜4年生の割合でみると約10%、10人に1人が通っていることになり、習い事としても注目されていることがわかります。
プログラミング教室へ通うことによる、子どもの変化は様々な回答がありましたが、「物事を筋道立てて考えられるようになった」「勉強に意欲的になった」が82.4%、「創造力が高まった」「できるまで、粘り強く取り組む姿勢が身についた」などが76.5%となりました。
まさにプログラミング的思考が育まれているといえるでしょう。
まとめ
プログラミング教育の必修化は、プログラミングの学習だけが目的ではなく、IT社会で最大限に能力を発揮するための「プログラミング的思考」を身につけることを目的としています。
IT人材の不足への対応や海外でのプログラミング教育の必修化が進んでいることからも、より学校教育において重要視されていくことが予想されます。
導入において、教育現場としては課題が残るところはありますが、今後のどのように解決されるのか注目です。
現状、プログラミング教育は義務教育では十分とはいえない状況です。
本格的に導入されるまでの間、スクールや教材を利用してプログラミングに触れられる機会があるといいでしょう。
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