2017年秋、Apple社はiOS 11を正式にリリース。iOS 11にAR(拡張現実)開発向けのフレームワーク・ARKitが搭載され、iPhoneとiPadは世界最大のARプラットフォームへと生まれ変わりました。
iPhoneユーザーはiOSを最新版へとアップデートすることで気軽にARコンテンツで遊んだり、自らARアプリを開発できるようになりました。
ARKitリリースを機に、注目を浴びるAR(拡張現実)。とはいえ「ARって、VR(仮想現実)やMR(複合現実)とは何が違うの?」と疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
そこでARについて、定義や事例、VRやMRとの違いを解説いたします。
この記事の目次
VR/AR時代に求められる人材とは?
VR/AR時代には、どのような技術とマインドを持った人材が必要とされるのでしょうか?
株式会社gumi 國光氏とテクノロジースクール「 テックキャンプ プログラミング教養」代表の真子が対談を行いました。以下の記事をご覧ください。
ARとは?
AR(Augmented Reality)=拡張現実
ARはAugmented(拡張)+Reality(現実)という言葉が示すように、CGなどによって現実世界にないものを視覚情報に付加して拡張する技術全般です。
スマホのカメラでのぞいたときに、そこにないものを現実に重ねて表現する手法がわかりやすいでしょう。
日本での普及は位置情報アプリから
「ARがすごい!」と最初に日本中を興奮させたのは、2009年にリリースされた頓智ドットのスマホアプリ「セカイカメラ」です。
カメラ越しの現実に「エアタグ」と呼ばれる文字や画像、音声などからなる付加情報を表示。
街はユーザーが自由に編集できるエアタグでいっぱいになりました。
セカイカメラの紹介動画。セカイカメラは2014年にサービスが終了したものの、その先見性はいまでも高く評価されています。
しかし一世を風靡した第一世代のARアプリは、スマホをかざさなくてはいけないという利便性の悪さとエアタグが氾濫してしまったという整理機能での欠点からやがて衰退していきました。
ARのしくみは位置情報とマーカー
ARの基本的なしくみは、付加情報を表示する位置をきめるARマーカーを配置し、カメラがこれを認識したときに画像が現実に重なるというもの。
ARマーカーで多く用いられるのはQRコードですが、配置に手間がかかるという欠点があります。
このような「マーカー型AR」に対して、実在する物体や空間をもとにして付加情報を提示する「マーカーレスAR」もあります。
マーカーやものなど、目の前にある環境ではなく位置情報を利用して付加情報を提示するタイプのARもあり、こちらは「ロケーションベースAR」と呼ばれます。
この技術はGPSだけでなく加速度センサーや傾きセンサーも利用して情報提示の場所を決めています。
セカイカメラなど位置情報アプリに搭載されたARはロケーションベースARです。
AR三兄弟とは?
数々のAR作品を世に放ち、ポップにARの普及に貢献したのが「AR3兄弟」です。
川田十夢を長男とする開発プロジェクトチームで、実際は兄弟でも3人でもありませんが、とにかくアッと驚くAR作品を多く作っています。
コカ・コーラの自販機にARを組み込んだり、真心ブラザーズのPVを手掛けたり、最近では「君の名は」とコラボしてスマホで夜空の星を操る「星にタッチパネル劇場」を開催したりと多才で多彩な集団です。
AR三兄弟によるAR技術の解説書です。ARを活用した企画・アイデアもふんだんに披露されています
AR・VR・MRの違いとは?
ARがどんなものか、なんとなくご理解いただけたところでVR、MRとの違いを見ていきます。VRはVirtual Reality(仮想現実)の略で現実とは重ならない、没入するタイプの人工現実を作り出すものです。
2016年がVR元年となりOculus Rift、HTC VIVE、PlayStation VRなどのデバイスも普及しました。
AR/VRの普及に伴いMR、つまりMixed Reality(複合現実)も台頭しています。
MRはMixed Reality(複合現実)の略で現実世界と仮想現実を融合させたものです。 例えば、現実の机の上に実在しないホログラムの靴が乗ったり、現実世界と仮想現実が相互に影響し合う技術のことです。
2017年秋はMicrosoftと提携した各メーカーより、続々とMRデバイスが発売されています。
例えばSAMSUNGはMRヘッドマウントディスプレイ「Odyssey」を発表、11月6日に発売開始予定です。価格は、2つのモーションコントローラ付きで499.99ドルです。
日本エイサーは「Acer Windows Mixed Reality Headset」 を発売中。Windows 10を搭載したパソコンにHDMIとUSBケーブルで、ヘッドセットを接続するだけですぐにMR体験ができます。
Acer Windows Mixed Reality Headsetには、従来には外部センサーを必要としたトラッキングシステムが内蔵されています。Oculus RiftやHTC Viveのように別途、センサーを室内に設置することなく、位置トラッキングが可能です。
よって、MR体験をするにあたっては部屋の工事や複雑な設定も不要です。価格が比較的安価で、セットアップも簡単であることからMRヘッドセットは今後、VRヘッドセットに代わり開発環境として人気が上昇する可能性があります。
すぐに体験できるARとは?
スマホのカメラをかざすだけ
ARがどんなものか体感したい方は、スマホアプリをダウンロードすればすぐに体験することができます。
大ヒットアプリ「ポケモンGO」も、もちろんARアプリです。
また前述のとおり、2017年夏にはApple社がAR専用の開発のフレームワークである「ARKit」を発表し、AR開発を身近にしました。AR市場の規模は今後、大きく拡大すると予想されています。
iPhoneで街中にお絵かき!ARKitですぐに体験できる、ARアプリ「World Brush」
iOS 11のAR(拡張現実)機能に対応している、ARお絵かきアプリが「World Brush」です。
World Brush
World Brushアプリで街中に描かれたARペイントは意図的に削除しない限り、作品が描かれたGPS地点で保存されます。保存されたペイントは、他のユーザーが閲覧することも出来ます。
街中でのスプレー・アートやドローイングは実世界で行うと犯罪行為ですが、AR空間上では合法で、他人に作品を披露することも可能です。 自ら街中でARペイントを描いたり、ARペイントを捜し歩くのも楽しそうです。
「IKEAカタログ」家具は位置をARで体験
自社のカタログにARを活用しているところもあります。
「IKEAカタログ」のARアプリでは、CGで作られた仮想家具を部屋に配置してシミュレーションを行うことができます。
サイズや色あいのフィット感を見るときにとても重宝しますよね。
「アメミル」天気予報をビジュアルで
気象レーダーARアプリ「アメミル」は、カメラをかざして降水量の確認ができます。
街にCGの雨映像が重なって見えるので、これから降る雨を先取りで実感できるというアイデアアプリです。
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ARの得意分野とは?医療や製造業での活用法
それぞれ詳しくみてきましょう。
医療現場での教育補助に
AR技術の応用として注目されるものに、医療があります。医療向けARは「Medical Augmented Reality」という分野が確立されているほどで、日本では神戸大学などが積極的に研究を進めています。
ARの活用法ですが、外科手術の際に患者の体表に血管の位置などを表示して画像で手術を支援します。患部がどこにあるかや、その周りの組織との位置関係の把握に役立てられるので、外科医の教育補助としても活用されています。
工場作業でのマニュアルを表示
工場などミスのリスクを伴う作業現場では、ARが積極活用されています。
AR画像で作業指示をすることでヒューマンエラーが回避できるのです。
また、作業中に手がふさがっていても、ARによりマニュアルを表示して作業を進めることができ、効率化に寄与しています。運送大手DHLも倉庫での荷物のピッキング作業にARを導入して、生産性が25%も向上したとのことです。
ARコンテンツ提供のメリットとは?ビジネスでの活用法
ここでは、ARのビジネスでの活用法についてみていきましょう。
特典にARコンテンツをつけて販促
アイデア次第で驚くような仕掛けや実用的な仕組みをつくれるARは、ビジネスでの活用事例も豊富です。
もっともポピュラーなのは、ARコンテンツを期間限定の特典につけることによる販促です。
2016年に不二家のミルキーが65周年企画として、パッケージにスマホのカメラをかざすことで、ARでメッセージムービーを再生できるという企画を実施しました。
また、おもしろいものでは、チョコレートブランドMinimalが期間限定のバレンタイン企画で、スマホをかざすとパッケージから音楽が流れるという企画を実施しました。
こういったプレミアム感の演出にARを使うのは効果的ですよね。
同じく2016年にカップラーメンのラ王が新パッケージを展開した際に、ふたにカメラをかざすとARボイスドラマがはじまり、美少女キャラがラーメンができるまでの5分間を測ってくれるという企画を実施しました。
こうした特典がつくことで好奇心がくすぐられ、買うつもりもなかった商品についつい手が伸びてしまいますよね。
情報に手軽にアクセスできる
ARのメリットとして、検索をかけるといったアクションを起こさなくても、ARマーカーのある位置、あるいは位置情報の一致する位置に来れば情報が表示される点があります。
近年目覚ましい進化を遂げているヘッドマウントディスプレイなどのデバイスを使えば、さらに手ぶらで必要な情報へのアクセスが可能で、顧客に見てほしい情報を表示させられます。
車のパンフレットで活用すれば、スペックやPR動画など見てほしい情報を重ねて表示させることもできますので、顧客に情報を伝える手法としてとても効果的です。
商用ポスターへの表示
ARがポスターにしかけられているケースもあります。
一見なんの変哲もないポスターにスマホのカメラをかざすことで、キャラクターが動き出す動画や音楽が流れ出すことも。
もの珍しさに集まったユーザーを見て、しかけを認識していなかった周りの人の興味も引くという二重の効果も期待できます。
このようにARは活用方法によっては優れた集客ツールになるのです。
下記の企業では、ポスターにARを組み込むことを可能にするサービスを提供しております。ご興味のある方は覗いてみてはいかがでしょうか。
・ARサービス「ココアル」
混同しがちなAR(Average Rate)は経理・会計用語
経理や会計にもARという用語が出てきますが、これは拡張現実をつかって経理を効率化しようという意味ではありません。
経理・会計で使われるARは、平均相場を表す「Average Rate」、または売掛金をあらわす「Account Receivable」となりますので混同しないよう注意しましょう。
ARを活用したイベント事例
博物館の案内表示
まずは博物館や美術館でよくある事例です。
博物館の中にARマーカーを設置し、そこでアプリをかざすことで動画や画像、音声による解説を取得できたり、スタンプラリーのようにコンテンツを閲覧できたりといった使われ方をしています。
東京国立博物館では公式アプリ「トーハクなび」を提供しており、こちらを利用することでARによって浮かび上がった男性が博物館内の作品を案内してくれます。
結婚式での記念撮影に
結婚式の演出としてARでのしかけが設けられることもあります。
スマホのARアプリで新郎新婦を撮影すると、現実にはないキャラクターや飾りなどが映り込むようなものです。
特別な日のサプライズを演出する人気が高い活用法です。
もちろん、クリスマスや記念日などにも同様に活用でき、思い出の一ページとなるほかSNSで拡散できるというメリットもあります。
下記の会社がAR×結婚式を取り扱っているようなので、ご興味のある方は覗いてみてはいかがでしょうか。
自治体の地域活性化に
地域を活性化するための観光客誘致にもARが活用されています。
ポケモンGOの地域限定イベントなどがその最たる成功事例で、10万人以上の観光客がイベントに参加して20億円の経済効果があったというからあなどれません。
このようにARには人の心を動かし行動を促す力があります。
現在もポケモンGOではARフォトコンテストを行っており、皆さんの生活を盛り上げようとしてくれています。 詳しくは公式サイトを御覧ください。
AR開発に詳しい開発者ブログ
いっしきまさひこBLOG
次世代デバイスなどの記事を扱った情報サイト「Build Insider」編集長のブログです。
AR開発SDKの「Wikitude」に関する記事も手掛けています。ご自身のブログにはAR開発に関する記事は見当たらないものの、Windows関連の参考になる記事がもりだくさんです。
はつねの日記
画像認識型のARを実際つくったことの報告や、ご自身が「Codezine」で執筆されたWikitudeに関する記事へのリンクを載せてくれています。
初心者にもわかりやすくステップ・バイ・ステップでandroidのARアプリ開発がすすめられます。
Headwaters Tech Note
ハイブリッド開発環境提供のWebサービス「Monaca」などで開発するエンジニア集団のブログです。
AR開発というと比較的古い記事が多いなか、今年の記事にMonacaとWikitudeプラグインによるアプリ作成の記事がありました。
コードも公開されていますので、ぜひARアプリに挑戦してみましょう。
https://utage.headwaters.co.jp/blog/
AR動画の紹介
最後に、ARのおもしろさが一目でわかる動画を紹介いたします。
Microsoft HoloLens Review, mind blowing Augmented Reality!
まずはマイクロソフトのホロレンズを使ったAR技術のレビュー動画です。
目の前の空間にPC画面や銀河系などのホログラムが固定されていて、さらにはジェスチャーでの操作が可能です。
部屋で実際に配置されている家具や壁に沿ってオブジェクトが展開されていて、ARからMRの未来を感じさせますよね。
ARで動く「教科書」
東京書籍が研究をすすめるAR技術を搭載した教科書の紹介です。
教科書の画像をマーカーにして、iPadをかざすと立体的な画像や動画が浮かびあがってくることで、子供たちはよりリアルに学ぶことができます。
このようにARは、リッチな教育を提供するのに有効な技術なのです。
AR三兄弟 第一話 | ワンダとtwitterと優しい奴ら
前述したAR三兄弟の作品です。
TシャツにARマーカーが埋め込まれていて、カメラをかざすと三兄弟のキャラクターが浮かび上がってきます。
吹き出しで物語が進んでいくという粋な発想で、ARで現実世界が拡張されるおもしろさをふんだんに味わうことができるでしょう。
未来のAR(拡張現実)の鍵は「体験の共有」スマートフォン不要に
2018年6月に行われたWWDCで、AppleはARの新たな開発キット「ARKit 2.0」を発表。ここでAppleは、AR体験の共有(マルチプレーヤー化)と持続をテーマとしたプレゼンテーションを行っています。
AR共有の体験とは、1つのARシーンを複数の端末で共有。同じ座標を共有して、ARオブジェクトを見て、体験できるということです。このことを通じ、1つのARアプリを複数人で同時にプレイ。ARの対戦ゲームや、ARを応用して家具の配置場所を家族数名で決めるような生活アプリの開発ができるようになります。
持続とは、こうしたAR体験を持続。ARシーン全体を保存して、一度プレイを中断しても次回もそのままシーンを呼び出せる仕組みです。
ウェアラブルARデバイスが普及?
予想では2020年中の発売だと考えられています。T288はApple製のARヘッドセットと見られてお理、スマートグラスのような形状になるとの声もあります。
同端末の特徴は両目で16Kの高性能ディスプレイと、iOSをベースとした独自OS「rOS」の存在。Appleは2017年にはアイトラッキング技術の専門企業を買収しており、外部センサーやスマートフォン連動などは不要で、単体で視線計測に対応すると見られます。
r0Sのrは「reality」のr。iOSをベースに改良を加え、より軽量な動作を実現しています。iOSをベースとしていることから、ARに関するコアの技術はARKitと同様のものとなる可能性が大きいです。
街中でスマートグラスを装着すると、ごく当たり前のように「現実」と「拡張現実」が折り重なった世界を目にすることができ、しかもその体験を何人もの人とシェアできる。
そんな未来が近づいています。
おわりに
ARは現実世界を拡張して豊かにしてくれる、可能性に富んだ技術です。
「AR派」「VR派」などと、どちらかの技術に偏る必要はまったくありませんので、それぞれがどう発展していくかをウォッチしていくスタンスを持ちましょう。
現実に満足している人も、いざ拡張してみるとその便利さおもしろさがすぐに実感できるのがARの特徴です。できることならこれらに技術を活用して、自分や周りの人の毎日を便利にたのしく拡張してみましょう。
既存のアプリの活用も良いですが、欲しい技術の開発にチャレンジしてご自身の能力を拡張するのも良いですね。
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