シリコンバレーで働くJunifyのCTO浜田卓氏に聞く「海外で働きたいエンジニアにおすすめのアクションプラン」
更新: 2020.02.17
シリコンバレーの企業である「Junify」は、元楽天CTOの安武弘晃さんが設立したスタートアップとして注目を集めています。
そのJunifyでCTOを務めているのが浜田卓(はまだ たかし)さんです。
今回は、Junifyのサービスの魅力やシリコンバレーで日本人が活躍するためのアクションプランについてインタビューしました。
※文中の写真は浜田さんご本人から頂いたものを掲載しております。
浜田卓
はまだ たかし
アメリカの企業であるIndeedに日本人ではじめて新卒エンジニアとして入社。その後、Branding EngineerのCTOを経験し、現在は元楽天CTOの安武弘晃氏が設立したシリコンバレーのスタートアップ「Junify」でCTOを務める。
この記事の目次
エンジニアの入り口はゲーム
—- まず、浜田さんのこれまでの経歴について教えて下さい。プログラミングを始めたのはいつですか?
プログラミングを始めたのは14歳です。その後、エンジニアになりたいと思って、高専に入学しました。
プログラムも広義で捉えるとモノづくりです。純粋にモノを作るのが好きだったのでエンジニアの道を選びました。
—- 高校生の年齢でエンジニアになろうと決めるのは簡単ではないと思います。身近な人にエンジニアがいたのでしょうか?
いいえ、いませんでした。
エンジニアの入り口はゲームですね。子どもの頃からゲームが好きで、遊ぶだけではなく自分でも作れるようになりたいなと。
ゲームがきっかけで、ソフトウェア全体に関心や興味を持つようになりました。
身近にエンジニアはいなかったのですが、両親がコンピューターに比較的早い段階で興味を持っていたので自宅にパソコンがあるという環境でした。
それを使って遊んでいても咎められたり止められたりした記憶がないので、それがよかったかもしれないですね。
高専・大学・大学院で学んだコンピューターサイエンス
—- 高専に入学後はどのようなことを学びましたか?
高専・大学・大学院まで、コンピューターサイエンス一筋で勉強しました。
—- コンピューターサイエンスとはどのようなことを学ぶのでしょうか?
コンピューターの回路がどのような原理で動いているのかということから、電気回路や素子のレベルまで学びます。
あとは、インターネットやOSが動作する仕組み、プログラミングのソースコードをコンピューターがどのように読み込んでいるのかといったことも学習の対象。
コンピューターサイエンスは、知れば知るほど学ぶことが出てくる奥深い世界です。
—- コンピューターサイエンスの知識は、サービスを提供する上でどのように役立っていますか?
今までにないサービスを作りたいと考えた時にコンピューターサイエンスの知識は非常に役立ちます。
今は無料で利用できるオープンソースが豊富に出てきていて、どんどんそのクオリティも上がっています。
それを組み合わせるだけでもサービスを作ることは可能です。
ただし、新しい革新的なサービスを提供したいのであれば、ありものを使うのではなく基本的な知識を理解して1から作る必要があります。
コンピューターサイエンスを学んでプログラムの原理を理解していたからこそ、「Junify」を作ることができたと感じています。
アメリカ企業「Indeed」の働き方に共感して入社を決意
—- 大学院を卒業後はどこに就職しましたか?
大学院を卒業後は、アメリカ企業であるIndeedでエンジニアとして働きました。
—- 昔から海外で働きたいと考えていましたか?
はい。英語が好きで、海外で働くことに昔から興味がありました。趣味で英語も勉強していましたし。
ただ、もともとは海外で働きたかったわけではなく、「自分で起業したい。自分で会社を作ってモノづくりがしたい」と思っていました。
日本にはよくわからない理不尽なルールが多くあり、窮屈さを感じていたからです。自分で起業すれば、環境に縛られることもないですよね。
そのような気持ちを抱える中で、大学院の時に出会ったのがIndeedです。Indeedの方と話をした流れで選考を受けることになり、運良く選考が進みました。
そして、アメリカのオースティンに面接を受けに行くことになりました。Indeedの開発部隊のヘッドクォーターがそこにあるからです。
そこで目にした自由に働く人たちの姿に衝撃を受けました。
—- Indeedで働く人たちは、どのような様子だったのですか?
短い時間でギュッと集中して働き、求められる成果を出すことがかっこいいという風潮でした。
年功序列はなく、できる人であれば勤続年数や年齢に関係なく評価される。
このような場所で働けるなら自分で起業しなくてもいいと思って、Indeedに入社しました。
—- 現在のJunifyにはどのような経緯でコミットすることになりましたか?
「世界でホームランを打てるプロダクトを作りたい」という安武さんのビジョンに共感したからです。
以前、たまたま安武さんとお会いする機会があって、話を聞くとすごいいい人だったんです。僕みたいな若造相手でも丁寧に接してくれたことが印象に残っています。
安武さんって創業前から楽天の開発に携わってきた人で、現在もIT業界で非常に有名な方。
でもじつは、初めて会ったとき僕は安武さんのことをそういう人だと知りませんでした(笑)なので、純粋に話を聞いておもしろいと思ったのが、コミットした大きな理由です。
Junifyで作っているのはスマホでも使えるバーチャルオフィス
—- 浜田さんはJunifyでどのような部分を作っていますか?
高いセキュリティと生産性の向上を実現するSaaSの開発に取り組んでいます。
Junifyがどのようなプロダクトか説明するのが難しいので、サービス説明サイトでも詳細はあえて掲載していません。
今までにないサービスなので、プロトタイプを見せながら口頭で説明しないとどんなものかイメージすることが難しいんですよね。
もし簡単に言うとすればスマホでも使えるバーチャルオフィス。
企業が業務で使用する基本的な機能、例えば勤怠管理の打刻とか。そういったものをクラウド上でソフトウェア化をしています。
—- 日本でも政府が「働き方改革」を謳っている今、需要がありそうなサービスです。もう少し詳細を聞かせてください。
たとえばスイッチのオンオフで仕事ができる状態とできない状態が切り替えられたり、セキュリティレベルを細かくチューニングできたりといった機能があります。
労働者と会社のどちらの目線からも、プライベートな時間に仕事の情報にアクセスできる状態は健全ではないですよね。
さきほどおっしゃっていたように、日本で「働き方改革」と謳われていますが、アメリカやヨーロッパでは「切断する権利」というテーマで言及されることが増えてきています。
いつでもどこでもアクセスできるのは便利です。ただ、それは「いつでも働ける」のではなく「いつでも働かないといけない」とも言い換えられます。
世の中にはまだ Junify のようなサービスがないので説明が難しいのですが、新しい働き方と強い経営の実現に役立つ、労働者にも会社にもメリットがあるサービスだと考えています。
アメリカで日本人がエンジニアとして働く上で、一番のハードルはビザ
—- シリコンバレーなど、海外で働きたいと考えている日本人エンジニアも一定数います。一番のハードルは何だと思いますか?
アメリカで日本人がエンジニアとして働く上でハードルになるのは英語や技術力と思われがちなんですが、じつは一番高いハードルはビザです。
アメリカで働く際に通常はH–1Bビザを取得します。
このビザを取得できる確率は20%から25%程度ととても低く、申請するための費用として50万円から100万円程度かかります。
雇用する企業からすると、取得できるかどうかわからない人のビザを申請するのはリスクが高く、余程優秀なエンジニアでなければサポートしてくれません。
トランプ政権以降は、H-1Bビザの取得がさらに難しくなりました。
※H–1Bビザは技術の高い専門職の外国人労働者を対象としたビザ。最大3年間の発行が可能。
—- ビザを取得するハードルも高く、サポートを受けることも難しいのですね…。
IT系で言うと、Google・Apple・Facebook・Amazon・Twitterといった大企業以外は、申請費用を出すのは難しいと思います。
当然、そのような大企業には世界中から優秀なエンジニアが集まってくるので、競争率が高くなります。ビザのサポートはしてくれるけれど、そもそも働くための敷居が高い。
その高い敷居を超えるためには、採用したいと思わせる実績を作る必要があります。
実績を作る1番簡単な方法はオープンソースへの貢献
—- どのように実績を作れば効果的なのでしょうか?
実績を作る1番簡単な方法はオープンソースに貢献することだと思います。
最近では、技術力をアピールするために社内で作ったプロダクトをオープンソースとして公開するケースも増えています。
自分が興味のある会社や働きたい会社がオープンソースを公開しているなら、それに貢献すると仕事につながる可能性があります。
もし上手くいかなかったとしても、実績になるのでマイナスにはなりません。
僕のように採用する立場からすると、オープンソースにコミットするという方法からは1、2時間の面接とは比較にならない濃い情報が得られます。
コミュニケーションはコメントで取れますし、エンジニアとしての能力もわかるので、これ程よい判断材料はないです。
「オープンソースで実績を作る」「会社の中の人と仲良くなる」「会社に興味があるというメッセージを送る」といった戦略的なアプローチは、海外で働きたい人にとってよいアクションプランだと思います。
シリコンバレーと日本のエンジニアのスキル、じつは大きく変わらない
—- シリコンバレーのエンジニアと日本のエンジニアに違いはありますか?
端的に言えば、シリコンバレーのエンジニアも日本のエンジニアも技術的には大きく変わらないです。日本人でシリコンバレーのエンジニアよりも優秀な人もいます。
大きな違いは、僕みたいにコンピューターサイエンスのバックグラウンドを持っている人が圧倒的に多いこと。
エッジの効いた新しいサービスを開発するという領域になると、そのようなコンピューターサイエンスの知識がある人が有利だと思います。
イノベーションが日本よりも生まれやすいという印象があります。
肌で感じたエンジニアのバックグラウンドを持つファウンダーの重要性
—- 海外での経験を含め、エンジニアとして働いてきて一番大変だったことは何ですか?
自分が考えるプロダクトの方向性が、CEOの方向性とマッチしない状態で働くのは大変でした。
最初はよくても、どんどんズレを感じるようになります。過去に僕が辞めたらプロダクトチームが崩壊してしまった経験をしたので、二度とそのような状態を招いてはいけないなと思っています。
そのような経験から、プログラミングができないCEOには、よいソフトウェアを開発する会社を作るのは難しいというのが持論です。
—- それはソフトウェア開発に対する理解が乏しいからでしょうか?
そうですね。ソフトウェア開発の経験がない人がマネジメントをしていると精神論に傾倒しやすくなります。
ソフトウェア開発は不確実性との戦いで、気合と根性ではどうしようもないこともあります。1日でできると思っていても、想定通り上手くいくとは限らない。
そういったエンジニアの感覚を理解してくれるファウンダーがいないと、一緒に仕事をすることは難しいと思っています。
安武さんのようにエンジニアのバックグラウンドを持つ人が絶対にファウンダーにいなければならない、と個人的には感じています。
—- 今のJunifyではよい関係が築けているのですね。
そうですね。苦しい時期はありましたが、創業した時の気持ちを変わらずに持ち続けられています。
—- 浜田さん、とても参考になるお話をありがとうございました!
Interviewer 桜口 アサミ
Writer 木村 ヒロト
Editor 桜口 アサミ
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