採用強者3社も獲得に苦戦!?人事が明かす「今すぐ欲しい」エンジニアの実態【メルカリ×DeNA×サイバーエージェント座談会】
更新: 2019.11.08
2030年には最大で約79万人ものIT人材が不足するといわれている。現役エンジニアにとっては、当面売り手市場を謳歌できそうだが、誰にでもチャンスが開かれているかというと、どうやらそうでもなさそうだ。
そこで、3回にわたって、エンジニアに人気の3社で技術部門の採用を担当する3人に、採用したいエンジニアとそうでないエンジニアの「境界線」について語って貰いました。
経産省が以前発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、労働人口の減少とIT需要の拡大などが原因で、2030年には最大で約79万人ものIT人材が不足するといわれている。
現役エンジニアにとっては、当面売り手市場を謳歌できそうだが、誰にでもチャンスが開かれているかというと、どうやらそうでもなさそうだ。
そこで、今回から3回にわたって、エンジニアに人気の3社で技術部門の採用を担当する3人に、採用したいエンジニアとそうでないエンジニアの「境界線」について語ってもらった。
第1回目となる今回は、現在3社で採用ニーズが高まっているエンジニアの特徴と、優秀なエンジニアを獲得するために見直している人事評価制度について話を聞いた。
(写真左)株式会社ディー・エヌ・エー
ヒューマンリソース本部 人材企画部組織開発グループ
立花 啓さん
(写真中央)株式会社メルカリ
中途エンジニア採用担当
渋谷亮介さん
(写真右)株式会社サイバーエージェント
Client Advanced Technology Studio チーフテックリード(Web 技術) メディア統括本部技術人事室長
佐藤 歩さん
この記事の目次
喉から手が出るほど欲しい! Androidエンジニア
――Web業界全体でエンジニア不足が叫ばれていますが、3社の開発現場ではどのようなエンジニアが必要とされていますか?
株式会社ディー・エヌ・エー ヒューマンリソース本部 人材企画部組織開発グループ立花 啓さん
DeNAに入社後、ECサービスやモバイルゲームなどのバックエンド開発に従事。その後、エンジニアマネジメント、事業責任者を歴任し、2016年からエンジニア採用、人材開発、組織開発、技術広報などを担当している
DeNA立花さん(以下、立花) DeNAはゲームやライブ配信などのtoC向けサービスから、オートモーティブやヘルスケアや野球といった歴史ある産業との協業サービスと、幅広く事業を展開しています。
そのため、Webサービスを支えるバックエンドエンジニアやネイティブアプリエンジニア、インフラエンジニアの採用は相変わらず多いですね。
また、数年前から、AI領域のコンピュータービジョンや機械学習などを専門的に扱うスペシャリストの採用も強化しています。面白いところでは、タクシー配車アプリ『MOV』を、オートモーティブ事業で手掛けている関係で、車載器に搭載するデバイスを量産する必要があります。
組み込み開発など、ハードウェア寄りのエンジニアも採用しているのは特徴的といえるかもしれません。
株式会社サイバーエージェント Client Advanced Technology Studio チーフテックリード(Web 技術) メディア統括本部技術人事室長佐藤 歩さん2012年入社。
ウェブサービスのフロントエンジニアとして、スマホ向けSNSサービスやAbemaTVの開発などに従事。18年10月から、新規サービス開発に携わる傍ら、メディア統括本部技術人事室長を兼務する
サイバーエージェント佐藤さん(以下、佐藤) 当社もウェブアプリやネイティブアプリの開発エンジニア、機械学習エンジニアの採用を増やしているのは、DeNAさんと同じです。
それ以外だと、『AbemaTV』の動画配信エンジニア、データ分析基盤を構築するエンジニアといった、インフラ寄りのエンジニア採用にも力を入れています。
株式会社メルカリ 中途エンジニア採用担当渋谷亮介さん
IT系フリーランスエンジニア専門の人材エージェント、ギークス(旧ベインキャリージャパン)を経て、2018年7月からメルカリで、国内向けアプリの開発を担うエンジニアの採用に携わる。19年1月からチームリード
メルカリ渋谷さん(以下、渋谷) 『メルカリ』は、ネイティブアプリのサービスなので、iOSやAndroidの開発を担うフロントエンドエンジニアとバックエンドエンジニアの採用が中心です。
とりわけ採用に力を入れているのは、Androidエンジニアですね。国内ではiOSエンジニアの数に比べると、Androidエンジニアの数が少なく、採用にはいつも苦労しています。
佐藤 よく分かります。Androidエンジニアは、当社でもコンスタントに採用するのが難しい職種の一つです。サイバーエージェントでは、クライアント側の開発に力を入れているため、一人でも多く採用したい気持ちです。
立花 実は、先ほどお話したハードウェアの領域でもAndroidに準拠した基板開発を行うことが多いので、Androidエンジニアの需要は当社でも高いです。クライアント開発側の需要ともバッティングしがちなので、私たちも採用には苦戦しています。
PM、EM、マルチにこなせるエンジニアの採用ニーズが高まっている
渋谷 メルカリでは、2017年~18年の1年間で多くのエンジニアを採用してきました。次の課題は、採用したエンジニアをどう育成するか。
そのため、現在はエンジニアの能力を引き出すエンジニアリングマネジャー(以下、EM)の採用にも力を入れ始めています。
立花 その点は当社も同じです。DeNAは最近、インターネット業界だけでなく、リアルな産業との結び付きの深いサービスを開発する関係で、品質やセキュリティー基準をそれらのサービスに合わせて高めなければならないケースが増えました。
現場からも、様々な業界で経験を積んだプロダクトマネジャー(以下、PM)や、多様な組織や人材を率いるEMを求める声は強くなっています。
佐藤 サイバーエージェントは、新規事業の立ち上げが多い会社なので、技術領域をまたいで柔軟に立ち回れるエンジニアが求められることもありますね。
ある程度、形が定まった事業に携わるエンジニアと違ってやるべきことが多く、幅広い領域で経験を積んだエンジニアでないと対応できないからです。
立花 同感ですね。特に、スモールスタートで始めるような新規事業の立ち上げには、経験のあるエンジニアが必要です。
「フルスタックエンジニア」とも昔は言われていましたが、フロントエンドもサーバーサイドもマルチにこなせるエンジニアは、DeNAでも非常に貴重な存在となっています。
エンジニアの人事評価制度は仕組み化しづらい?
――人材難の中では、エンジニアの評価制度も重要です。3社では、どのような工夫や配慮をしていますか?
佐藤 悩ましいのは、新規事業に求められるマルチプレイヤー型のエンジニアと、ある程度分業化が進んだ既存事業でスキルを深掘りしているエンジニアでは評価すべきポイントが違ってくるということです。
サイバーエージェントでは、今まさにエンジニアの評価制度を見直しているところですが、皆さんの会社ではどうなさっていますか?
渋谷 先ほど、EMの採用が求められていると言いましたが、その理由は、まさにエンジニアの評価の要になる立場だからです。
当社では、技術分野別にEMを置いていて、このポジションには、周辺領域についても理解しているエンジニアに就いてもらうようにしています。
EMがマルチに技術領域を理解していれば、メンバーが担当領域以外で出したパフォーマンスや貢献を取りこぼさずに評価できるからです。
立花 DeNAには、本人の希望でリソースの最大30%まで他部署の仕事を兼務可能にする「クロスジョブ制度」があります。
この制度を活用するエンジニアが増えていることもあって、直属のマネジャーはメンバーが関わっている部署から多くのリファレンスを集めて、エンジニアを評価するようになってきています。
職能ごとに「◯◯ができたら◯◯と評価する」という一定の基準があったとしても、自部門以外の兼務先でのリファレンスも頭にいれ、最終的には外の世界ではどれくらい評価されているのか見極めた上での総合的な判断は、マネジャーの判断や力量に委ねられており、評価の難易度が高くなっています。
佐藤 そういう意味では、評価制度を運用するマネジャーの教育や、直属のマネジャーの評価が妥当かどうかを客観的に判断する仕組みづくりが大事になってきそうですね。
渋谷 そうですね。特に、評価する側のマネジャー同士での擦り合わせはとても重要です。
当社では、EMと、彼らを統括するEngineering Manager of Engineering Managers(EMofEMs) 、さらにその上の執行役員VP of Engineering(VPoE)が、四半期ごとに集まって、エンジニアの評価を擦り合わせる「評価キャリブレーション」と呼ぶ会議を行っています。ここでエンジニアの最終的な評価を下すことにしています。
佐藤 サイバーエージェントもメルカリさんと同じような方法で、エンジニア個人の評価の擦り合わせを、複数人で行っています。
この評価をどうにか「仕組み化」できたらいいのにと思うこともありますが、多少マンパワーがかかっても、丁寧に議論することで、発見できることもあると感じています。
立花 同感です。複数の人が議論を重ねる評価方法は、手間と時間はかかりますが、公平な評価をするためには必要なプロセスなのではないかと思います。
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まだ表舞台に立っていない、エンジニアも獲得したい
――いままでのお話以外に、採用や評価で苦労されている点があれば教えてください。
立花 エンジニアの市場価値をどう評価するかは、採用だけでなく後々のチームのマネジメントにも影響する重要なポイントです。
特にAI領域に関わるエンジニアの市場価値は、私たちの想像以上のスピードで高まっています。適切に評価をする能力がなくては、そもそも採用することが出来ません。
また、採用後にギャップが発生してしまった場合は、メンバーが気持ち良く働くためにも、適切に対応する必要があると感じています。
渋谷 同感です。エンジニアの売り手市場は今後も続いていきますから、市場価値をキャッチアップして評価に生かすのは、人事の役割として非常に重要ですよね。
うちの場合ですと、人事が積極的に外に出て、集めた情報を人事同士で共有して、逐次エンジニアの評価に生かしてます。
佐藤 当社も他社の人事と情報交換をしたり、競合の給与調査をするサービスなども利用したりして、適宜給与テーブルを調整するようにしています。いずれにしても、エンジニア不足の折、慎重に対処しなければならないポイントですね。
渋谷 人事が外に出るといえば、採用担当者に求められる動きも相当変わってきていますよね。
企業が「採用したい経験・スキルを持つ人材」に対して、直接アプローチをする攻めの採用手法「ダイレクトリクルーティング」が一般的になってきたと思います。
広告を出してエンジニアの応募を受動的に待つというより、人事から仕掛けて採りにいくようなヘッドハンター的な動きが求められるようになりました。
佐藤 そうですね。確かに人事が能動的に仕掛けて動く機会は増えている気がします。その一方で、ダイレクトリクルーティングで出会えるエンジニアの傾向に偏りを感じることはありませんか?
立花 確かにそういう面がありますね。エンジニアブログを頻繁に書いていたり、イベントで登壇したりするような、情報発信に積極的なエンジニアばかりに目が向きがちです。
佐藤 そうなんです。もちろん、業界有名人や外交的なエンジニアが来てくれるのは大歓迎です。
でも、表立った活動をしていないエンジニアの中にも、光る人材がいるのではないかと思っていて、そうした人材をどうやって見つけ出して、採用するかは今後の課題だと思っています。
立花 私たちは、転職市場になかなか出てこない層にDeNAの内情を知っていただくために、技術コミュニティでの情報発信や技術ブログ、オウンドメディア『フルスイング』を通じた技術広報に力を入れています。
まだまだ行き届かない部分もありますが、募集の手前でやるべきことはたくさんありそうです。
渋谷 当社も『mercan(メルカン)』というオウンドメディアで情報発信をしていますが、現状では日本語の記事が大半です。
今後、海外からの人材も増やしていこうと思ったら、英語による情報発信をもっと増やす必要があるでしょう。これからは、広報すべき内容や伝え方が一層厳しく問われることになりそうです。
立花 そうですね。いまの状況を見る限り、将来的にエンジニアの数を2倍、3倍に増やす時期がやってきたとしても、その全てを日本人エンジニアで賄うのは、現実的ではなさそうです。
海外人材をいかに集めて定着してもらうか。今後人事として真剣に考えなければならないテーマだと思います。
第2回の記事では、「各社の人事がエンジニア採用で重視するポイントと、面接で必ずする質問」についてご紹介します。次回もお楽しみに。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴
こちらの記事はエンジニアtypeのコンテンツから転載しております。元記事はこちら
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