会社の経営を考える上で、重要な要素となる「コアコンピタンス」。「中核企業力」と言われることもあります。
今回はこの「コアコンピタンス」の意味や、重要性について解説します。ホンダやソニーといった、著名企業におけるコアコンピタンスの実例も紹介しましょう。
コアコンピタンスとは
コアコンピタンス(core competence)を直訳すると、「核の強み」となります。ここから詳しく見ていきましょう。
英語では「core competence」
コアコンピタンスとは、英語の「core」と「conpetence」を組み合わせた言葉。
これらの言葉は、それぞれ「核」と、「力量」「技量」「能力」といった意味を持ちます。つまりコアコンピタンス とは、「核となる強み」を示す言葉です。
コアコンピタンスは「核となる強み」
「核となる強み」とは、会社で言うと「自社能力」と言い換えられます。会社は様々なコンピタンス(能力)を持っています。
その中でも、core(中核)の能力を指すのがコアコンピタンス。つまり「自社ならではの中核となる強み」「他社には真似できないような能力」のことを指します。
このコアコンピタンスを定義したのは、世界トップクラスの経営学者 ゲイリー・ハメルと元ミシガン大学大学院教授 C・K・プラハラード。
彼らは共著『コア・コンピタンス経営ー未来への競争戦略』(日本経済新聞出版社社)の中で、コアコンピタンスを以下のように示しています。
顧客に対して、他社には真似のできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力
コアコンピタンスの把握は市場競争での優位性を保つ
自社のコアコンピタンスを把握することは、市場競争における優位性を保つ上で重要です。
そもそもコアコンピタンスが重要視されるようになったのは、経営戦略の考え方の一つ、「RBV(Resource Based View)」が元となっています。
RBVとは、企業の内部の経営資源に着目し、競争の優位性を求めるアプローチのこと。
つまり「外部ではなく企業がもともと持つ強みを生かすことが大切である」という考えが元となっているのが、「コアコンピタンス」なのです。
コアコンピタンスとケイパビリティの違い
コアコンピタンスは「自社の強み」を意味する言葉ですが、同様の言葉として使われるのが「ケイパビリティ」です。
この2つを混同している人も多いのではないでしょうか。ここでは「コアコンピタンス」と「ケイパビリティ」の違いを解説します。
ケイパビリティは組織能力
ケイパビリティは英語表記で「capability」。この言葉は「能力」「特性」「性能」といった意味を示します。これらはコアコンピタンスが表す意味と共通します。
しかしケイパビリティはコアコンピタンスとは異なり、「組織的な強み」を示す言葉です。一方コアコンピタンスが示すのは、「特定の」能力・力量・適性。
つまりどちらも相容れないものではなく、相互に補完するという見方もできます。
ケイパビリティの例
ケイパビリティが表す「組織的な強み」とは、例えば「スピード」や「高品質」など。経営管理手法の一つである「サプライチェーンマネジメント(SCM)」も、ケイパビリティの具体例です。
また、ケイパビリティを活用した経営戦略のことを、ケイパビリティ ・ベースド・ストラテジー(capability based strategy)と言います。
コアコンピタンスを見極める方法
コアコンピタンスを見極めると、他社には真似できない、自社ならではの強みを活かすことができます。これは変化が激しい現代社会の市場競争において、重要な意味を持ちます。
ここではコアコンピタンスを見極める方法を、3つのステップで解説します。
自社の強みの洗い出しを行う
自社の強みの洗い出しで重要となるのが、会社におけるコンピタンスや事業などの関係性を整理することです。
そこで意識して欲しいのが、以下のような「樹」のイメージで捉えることです。
・コンピタンス:根
・コア製品:幹
・事業:枝
・最終製品:花・果実・葉
つまりコンピタンスは、最終製品を生み出すための、大本となる根っこの部分。企業の「技術力」と言い換えられます。
そしてその根っこから枝分かれして誕生するのが「コア製品」で、そこから「事業」が生み出され、「最終製品」へとつながります。
その中でも「コアコンピタンス」となるのは、「コア製品」への枝分かれがもっとも多い部分。
このコアコンピタンスを見出すためには、次の項目で解説する3つの条件をクリアする必要があります。
3つの条件をクリアしているかチェック
前項で洗い出したコンピタンスを、以下の3つの条件をクリアしているかチェックしましょう。
・顧客に利益をもたらすか
・汎用性はあるか
・競合他社がマネできないか
これら3つの条件について、ここから一つずつ解説します。
条件1:顧客に利益をもたらすか
自社メンバーが「強み」と思っている部分でも、顧客が満足できなければ意味がありません。顧客の視点に立って、その強みが「顧客に利益をもたらすか」「顧客にとって選ぶ価値があるか」を考えることが大切です。
宣伝手法によって、一時的に多くの製品が売れることはあります。しかしそこから顧客がリピーターとなってくれるかどうかは、顧客に本質的な利益をもたらしたかどうかにかかっています。
例えば「その製品が期待値以上の効果をもたらした」「これまで使っていた製品よりもコスパがよかった」など、顧客が利益の実感を得るものでなければなりません。
条件2:汎用性はあるか
世にも珍しい製品を売り出したとしても、それを模倣した製品は次々と誕生します。そして顧客も、新しいものが市場に出されれば、「こっちも使ってみよう」となってしまい、顧客離れが起きてしまいます。
また変化が激しい現代においては、一時は需要があった製品であっても、すぐに流行が廃れ、需要がなくなるケースも多いです。
つまり高い技術力があったとしても、それがある特定の製品にしか応用できなければ、それはコアコンピタンスとは言えないのです。
一方で汎用性のある技術力であれば、継続して新たな製品を生み出すために応用できます。例えばA製品の顧客離れが進んでしまったとしても、その技術力を活かしてB製品でまた市場競争にチャレンジすることも可能です。
このような技術のフレキシブルさは、コアコンピタンスの重要な条件です。
条件3:競合他社がマネできないか
コアコンピタンスの重要な条件として、「自社ならではの」と言う部分があります。
激しい市場競争の中では、新しいアイディアの製品を生み出したとしても、簡単に真似できるものであればすぐに模倣されてしまい、競争力を失ってしまいます。
しかし他社がすぐに真似できないものであれば、長期的な市場競争でも生き残りをかけられます。すぐには利益を生み出さないものであっても、長期的に見れば本質的な利益をもたらすものもあります。
自社ならではの技術が将来的に社会に求められる製品を生み出し、付加価値を提供できる源となる可能性があるのです。
そのような、他社は真似できないような強みを見出し、コアコンピタンスとするのが大切です。
コアコンピタンスをより明確にする
上記3つの条件を満たしたコンピタンスから、さらに「コアコンピタンス」となり得るコンピタンスを絞り込み、明確にします。
この絞り込み作業では、現在の市場を踏まえたるだけでなく、将来的な市場も見据えたディスカッションが必要です。
上記3つの条件をもう一度確認し、それぞれの条件でどこまでのレベルを目指すのか、また現在はどのレベルまで到達しているのかも確認しながら、自社の中核となるコンピタンスを絞り込み、より高いレベルへの向上を目指します。
コアコンピタンスの事例
上記3つの条件を改めて整理すると、コアコンピタンスとは以下のようなものになります。
「顧客にメリットがあり、他社に容易に真似されない自社だけの技術力」
では具体的にはどのようなものなのでしょうか。ここでは富士フィルム、ホンダ、ソニー、シャープ、スターバックスにおけるコアコンピタンスの事例を見ていきましょう。
富士フィルムのナノテクノロジー
出典元:富士フイルムホールディングス
デジタルカメラの普及に伴い、富士フィルムにおけるフィルム事業の売り上げは減少しました。
その中で舵を切ったのが、「美容」「医療」分野。活用したのは、フィルム製造で必要となる精密技術と、フィルムに使用する高純度コラーゲン製造技術。
これらの高い技術力が、富士フィルムにおけるコアコンピタンスと言えます。
美容分野ではナノ化技術を応用した化粧品を開発し、医療分野では再生医療にも取り組んでいます。
ホンダのエンジン技術
1960年代後半、自動車の排気ガスが社会問題化し、1970年に大気浄化法改正法(マスキー法)が提唱されました。
これはあまりにも厳しい基準で、アメリカをはじめとした世界の自動車メーカーは、この基準をクリアするのは不可能と主張しました。その中でホンダは新たなエンジンを開発し、この基準を満たす自動車を作り上げたのです。
それまで自動車産業では遅れをとっていたホンダにとって、このマスキー法提唱は絶好の機会でした。
この高いエンジン技術をコアコンピタンスとし、芝刈り機やオートバイなど、あらゆる用途・サイズの製品に応用していきました。
ソニーの小型化の技術
出典元:Sony Japan
電化製品が誕生したまもない頃、その大きさや重量、価格の高さから、なかなか家庭向けとしては普及しませんでした。
1950年にソニーから登場した日本初テープレコーダー「G型」も、当時の価格は16万円。重量は40kgにも及びました。そこからソニーの製品小型化に向けた努力が始まったのです。
その結果生み出されたのが、言わずと知れたソニーの大ヒット商品「ウォークマン」。その重さはわずか390gでした。
このソニーの小型化技術は、のちのポータブルラジカセやポータブルMDプレイヤー、ポータブルテレビなどにも応用され、ソニーの技術力を見せつける要因となりました。
シャープの液晶技術
シャープは、もともとシャープペンシルの製造業を行なっていた会社です。
しかし電卓の液晶パネルに携わったのをきっかけに、その分野での研究をスタートさせ、液晶技術の開発・生産に成功しました。
この液晶技術を用いて、ポケット電卓を発売し大ヒット。時計やAV機器へと応用していきました。
シャープの投資家向けページでも、「シャープのコアコンピタンスである液晶の技術」と記載されています。
スターバックスコーヒーの「サードプレイス」
スターバックスコーヒーは、かつて経営危機に陥った時期があります。そこでCEOに復帰したハワード・シュルツは、原点回帰によって「スタバらしさ」の回復を図りました。
当時スターバックスでは、業務効率化により、店舗で挽きたてのコーヒーを楽しめなくなっていました。一時は「マクドナルドのコーヒーよりも味が落ちた」と指摘されたほどです。
そこでシュルツは、再度店舗でコーヒー豆を挽く方式に変更し、バリスタの再研修も行ないました。こうして、スターバックスは独自のコンセプト「サードプレイス(第3の空間)」を確立させていったのです。
スターバックスのホームページには以下のようなミッションが示されています。
人々の心を豊かで活力あるものにするために—
ひとりのお客様、1杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから
自宅でも職場でもない、訪れると一杯のコーヒー以上のくつろぎを与えてくれる空間=「サードプレイス」。これがスターバックスのコアコンピタンスと言えます。
このように、コアコンピタンスの事例を見ると、経営危機などの問題を乗り越え、ピンチをチャンスに変える原動力を持つことがわかります。
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変化に対応する新しいコアコンピタンスの獲得や構築が大切
コアコンピタンスによって競争で優位性があったとしても、市場の変化により陳腐化することは考えられます。それを軸に事業を展開して、新たなコアコンピタンスの獲得や構築を行うことが大切です。
また、コアコンピタンスと合わせて、ケイパビリティも強化すれば、厚みのある事業展開が可能です。狭い視野ではなく、広い視野を持つことが、変化の激しい現代のビジネスにおいては大切でしょう。
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