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東京五輪やアイドルのライブにも導入される顔認証システム【仕組みや事例を解説】

更新: 2020.06.10

私達の身体そのものが、個人を特定するための「証明」として当たり前になりつつあります。

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、選手やボランティアなど関係者の入場時に最新の顔認証システムが導入されることが発表されました。

2017年に発売されたiPhoneXではロック解除に顔認証が用いられている他、羽田空港では入国手続きに顔認証が採用され、パスポートの写真データと照合することで本人確認作業を円滑に行えるようになっています。

アイドルのライブへの入場、海外では買い物の支払い処理にまで顔認証が利用されており、パスワードなどの従来の認証方法の問題点に対するソリューションとして今後さらに普及していくと見られています。

一方で、身体のパーツの中で最も露出し、隠しようがないと言っても過言ではない「顔」が認証方法として用いられることに不安を感じる方もいるのではないでしょうか。今回は、そのような私達の日常の「当たり前」になりつつある「顔認証」に焦点をあて、その仕組み、活用事例、メリット・デメリットなどを解説します。

東京オリンピック・パラリンピックで顔認証システムの導入が決定

2020年に開催される東京オリンピックにて、会場入場時に顔認証システムが導入されることが発表されました。

セキュリティの強化と、入場の迅速化を目的とされています。

顔認証システムは、選手をはじめボランティアやメディア関係者、およそ30万人を対象としており、一般の観客は含まれません。

これまでのオリンピックでは、警備員が顔写真と利用者を目視で確認し判断していました。2020年から導入される顔認証システムは、IDカードと入場時に撮影される写真を機会が照合し、データと本人が一致すると判断されれば入場できる仕組みです。

関係者用入場口のチェックポイントで、読み取り機にカードをかざすだけで認証できるので、入場待ちの時間を大幅に短縮できるでしょう。

導入に先駆けて行われた実験では、入場チェックを従来の2.5倍のスピードで行うことができたと報告されています。

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顔認証システムとは

顔認証システムとは、文字通り「顔」によって個人を認証するシステムのこと。指紋認証や虹彩認証などと同様、人体の固有の特徴を利用して本人確認を行う生体認証(バイオメトリクス認証)の一種です。

カメラに写った顔の特徴を捉え、あらかじめ登録しておいた顔の中から一致するものを検索し、本人かどうかを確認します。

かつての顔認証システムは、カメラの前で静止しておく必要がありました。しかし現在の技術では対象に動きがある場合や、サングラスなどで顔の一部が隠れている場合でも認識できるようになってきています。

最新の顔認証システムはディープラーニング(深層学習)技術を導入し、顔の向きや照明の明るさが異なっていても、高精度で人物を特定できるようになっています。

静止画を使った場合の認証精度はほぼ100%に高まったと言われ、化粧や表情の変化、老化や怪我による見た目の違いも識別が可能になりました。

顔認証技術研究の歴史

顔認証技術研究は、1973年より、京都大学で始まった研究がベースとなっています。

その後、1993年頃からアメリカの陸軍研究所が中心となり、顔認証アルゴリズム・コンテストを行い、共通の評価データベース基盤を持ったことでその後急速にアルゴリズムが発展しました。

1997年頃からはアメリカの各メーカーが商品化に向けた研究を始めました。

近年では従来のパスワードや暗証番号などによる認証よりもなりすまし(不正)がされにくい認証方法として世界で研究が進められ、現在は空港、コンサート会場などで導入されています。

活用事例については記事の後半で詳しく紹介しています。

そして2017年、iPhoneXが顔認証によるユーザー判別機能「Face ID」を搭載したことから、その実用性と可能性に大きな注目が集まるようになりました。

顔認証システムの仕組み

化粧、怪我、成長、老化、体調や体形、さらに一瞬ごとの表情など多様に変化する私達の「顔」は、どのような方法で識別・認証されているのでしょうか。

顔認証システムは、「顔検出」と「顔照合」の2つのプロセスに分かれます。それぞれの仕組みを詳しく解説していきます。

顔検出

顔認証は、まず画像や写真の中から顔を検出するところから始めます。

人間は、パッと見るだけでそれが人の「顔」であることを認識することができますが、コンピューターはそうではありません。

コンピューターが顔を認識するため、まず明暗に注目します。

人間の顔を低画質やモザイク状の画像で見てみると、目のあたりは暗くてその周辺は明るい、あるいは鼻筋は明るいがその両側は暗い、といった大雑把な特徴があります。

これらのパターンをコンピューターはあらかじめ学習しておいたデータと比較し、人間の顔のパターンのデータと一致するものが写真の中にあれば、そこを顔として特定します。

スマートフォンなどのカメラで人の顔を写した時に、顔が四角で囲われる裏ではこのような処理が行われていたということです。

顔を検出すると、次に目、鼻、唇の端などを特徴点として認識します。

顔の大きさや毛髪量などは体形や年齢、表情によって同じ人でも異なりますが、目と目の間の距離、小鼻の幅、顔の凹凸、ほくろの位置などは変化しません。

これらの、年月が経過しても変化しにくい、かつ個人によって差異がある顔のパーツに点を打ったものを「特徴点」と言い、各特徴点の位置や特徴点間の距離などが、個人の顔を数値化した顔認証データとなるということです。

なお、顔検出の具体的な仕組みはメーカーによって異なることがあります。

顔照合

画像や写真の中から顔を検出し、特徴点を識別した後、正規化したデータをデータベースの情報と照合し、データが一致、あるいは似ているものがあればその人であると判定されます。

このように、顔認証システムには

  1. 写真や画像の中から顔を見つけ出して、その顔の特徴を数値化する顔検出
  2. 検出した顔をデータベースにある顔と比較する顔照合

の2つのプロセスに分けられています。

似た言葉として「顔認識システム」というものもありますが、これは写真や映像から人の顔を認識するだけで、照合は行いません。

顔認識システムは、スマートフォンで撮影した画像への美肌加工、デジカメでの撮影時に顔にピントを当てる、来店者の年齢や性別を識別してマーケティング・リサーチを行う、といったものに活用されています。

3D顔認証

今解説した画像から行う顔認証は「2D顔認証」と呼ばれており、人の顔を平面で捉えています。

しかし、今後は人の顔を立体的に捉える「3D顔認証」が一般的になると考えられており、実際にiPhoneXなどでは「3D顔認証」が採用されています。

「3D顔認証」では、赤外線の3Dセンサーを使って、人の顔の凹凸までもデータ化します。

これにより、暗い場所や化粧やひげがある状態であっても認証が可能になり、写真などを用いたなりすましの予防にもなります。

顔認証の種類

現在、「顔認証」と言われている手法には2種類あります。

静止画認証

カメラの前で静止し、顔をカメラに向けて行うのが静止画認証です。

これは、認証を受ける本人が自らの意思によってカメラに顔を向ける必要があるため「積極認証」と呼ばれています。

動画認証

一方、本人がカメラを意識しない状態で認証が行われるのが、動画認証です。

本人が意識しない間に認証が行われているため「非積極認証」と呼ばれます。

動画認証では、対象者がカメラから遠い、正面を向いていない、複数人を同時に認証しなければならないなどの条件が加わるため、静止画認証よりも認証が困難で、高い技術が必要とされています。

メリット

様々な現場で導入され、今後さらに普及していくであろう顔認証システム。

続いて、顔認証システムのメリット・デメリットを整理しましょう。

特殊な機材が不要

顔認証システムの一つ目のメリットは、指紋や目の虹彩で認証する他の生体認証と違い、特殊な機材が必要ありません。

カメラとソフトウェアがあれば認証を行うことができるため、導入する側にとっても少ない初期投資で始められます。

スマートフォンに搭載されているカメラを使って認証することもできるため、一部のアプリでは顔認証によってログインができるものもあります。

ユーザーの負担が少ない

二つ目のメリットは、認証される人の心理的な負担が少ないことです。

指紋認証の場合、実際に認証機器に触れることで指のデータを登録します。虹彩認証であればセンサーをじっと見つめる必要があります。認証される側としては「今まさに自分のデータが読み取られ、照合されている」という心理的なストレスを感じるでしょう。

一方、顔認証の場合、普段写真を撮られるような感覚で認証ができ、機器に直接触れることがないため、心理的な負担が少ないと言われています。

また、非積極認証である動画認証では、認証を受ける本人はカメラに顔を意図的に向ける必要がないため、積極認証と比較して心理的なストレスがさらに少ないと言われています。

小さな子どもや赤ちゃんの場合、自分で指紋を登録することができない場合や虹彩認証のセンサーの前でじっとしていられない場合もあるため、顔認証は幅広い年齢の人に適している認証方法と言えます。

不正リスクが少ない

鍵やICカードなどは紛失、盗難のリスクがあり、パスワードなども特定されると不正ログインなどをされる可能性があります。

一方で、「顔」という個人ごとに異なり、また複製が限りなく不可能なものを認証に利用することで、不正リスクが低いこともメリットの一つです。

iPhoneXの顔認証で用いられている「3D顔認証」では、2つのカメラと赤外線ドットの投影で対象の奥行きを図っているため、平面の写真を使ってもロックを解除することはできず、写真を使った不正ログインを防げる仕組みになっています。

もちろん、任意で変更できるパスワードなどとは違い顔は一生代わることがないため、そういったデータが読み取られ、保存され、認証に使われることに不安を感じる方もいるかもしれません。

しかしながら、最近では誕生日や名前といった漏れやすい個人情報を元にした簡単なパスワードはコンピューターによって容易に特定されると言われています。複雑で長いパスワードを暗記したり、それらをログインの度に入力する手間を考えると、顔認証は安全でかつ手間がかからない認証方法と言えるでしょう。

デメリット

一方で、今後解決しなければいけない問題やデメリットもあります。

認証できない画像もある

顔認証技術の精度は非常に高く、日々研究開発が進められていますが、まだ万能というわけではありません。

例えば意図的に大きく加工された画像や、一卵性双生児の識別は困難であるのが現状です。iPhoneXでも双子の識別はできないと言われています。

人間でも一卵性双生児の見分けがつけられないことが実際にありますが、システムのログイン、オフィスへの入室や空港の搭乗手続きなど不正を防がないといけない現場で顔認証を導入する場合には、こういった課題も今後解決されなければなりません。

誤認証の可能性

すでに顔認証システムの精度は実用化されるほど高いものではありますが、実用化の中で誤認証が起きたこともあります。

実際に報告された誤認証のケースとして、ニューヨークに住む10歳の少年が母親のiPhoneXを顔認証で解除できてしまったことがありました。

人間であれば、たとえ顔が似ていたとしても性別、身長、髪型などから総合的に判断して、親子を間違えることはありません。

しかしながら、顔認証システムは人間の顔を目、鼻、口といった特徴をデータで捉えるため、人間だと間違えないような親子や家族の顔をも同じであると誤認識してしまうことがあるのが現状です。

プライバシー

プライバシーの問題もあります。

指紋や虹彩と違って積極的にデータを取得する認証方法とは違い、顔認証システムは意図しない場面でデータが読み取られていることがあります。

顔認証システムは防犯カメラなどに活用されているため、自分の知らないところで顔のデータが読み取られたり、個人が特定されていたりすることに心理的な抵抗を感じる人や、勝手にデータを読み取り、利用することはプライバシーの侵害に当たるのでは、と疑問視する声も多いです。

顔認証システムの普及によって、名前や住所など口に出さないと漏れないような個人情報とは違って「隠しようがない」顔が個人情報として扱われるようになってきました。

最近では、SNSによって離れた場所にいる誰かの顔やプロフィールを容易に閲覧することができるようになり、Facebook、Instagramなどで自分の写真や動画を載せている人もたくさんいます。

顔認証がより一般的になり、個人が「自分の顔」を大切な個人情報として認識するようになると、こういったSNS文化もまた変化してくるかもしれません。

導入事例

解消すべき課題もまだありますが、顔認証システムは現代社会にある様々な問題に対するソリューションとして、色々な場面ですでに導入されています。

その一部を紹介します。

スマートフォン

すでに紹介したとおり、2017年11月3日に発売されたiPhoneXには、顔認証システム「Face ID」が搭載されています。

「Face ID」は端末のロック解除に加え、Appleオンラインストアでの購入や、Apple Payの認証にも利用できるため、支払いを「顔パス」で行えます。サングラスをかけていたり、暗い所でもロックを解除することができる高い技術が採用されています。

iPhone以外でも、サムスンの「Galaxy S9」と「S9 Plus」にも顔認証と虹彩認証を組み合わせた認証システムが搭載されており、今後も顔認証システムが搭載されたスマートフォンは普及していくと見られています。

音楽ライブ

法外な価格でのチケット転売を防ぐ目的で、会場での顔認証を導入するライブが増えています。

チケットの購入者は申込時に顔写真を登録し、会場への入場時に顔認証システムによって照合することで、複数枚チケットを購入してオークションに出すといったことを防ぐ目的があります。

一部の例を紹介します。

MR.Children

MR.Childrenは2015年からライブでの顔認証を導入しています。

宇多田ヒカル

11月6日から12年ぶりの全国ツアーを行う宇多田ヒカル。

6月27日にリリースされた7枚目のオリジナルアルバム「初恋」に「ツアーチケット先行応募抽選券」が封入されており、抽選の応募受付がスタートしました。

チケットサイトには、公演当日の入場の際に顔写真による本人確認を行うことや、チケットの抽選申し込みには事前に顔写真の登録が必要との旨が書いてあり、さらにチケット2枚で申し込む場合も、同伴者の顔写真登録が必要だとのことです。

ももいろクローバー Z

ももいろクローバー Zは2014年から、コンサートの入場に顔認証を導入しており、当時は音楽シーンでは先進的な取り組みとして注目を集めました。

チケット購入者は事前に顔写真をインターネットで登録し、公演当日はIC会員証を使用して【顔認証】をする入場方法を採用しています。

大手アイドル事務所のジャニーズも、2016年のの嵐のコンサートツアーから顔認証を導入し、チケットの不正な転売を防止しようとしています。

これらの取り組みはチケットの転売防止には有効である一方、申込者・正規の購入者しか入場が許されず、家族や友人から正式に譲り受けた場合においても会場に入場できなかった、という事態も引き起こしており、柔軟な対応を求める声も一部からは上がっています。

ビジネス

セブンイレブン

セブンイレブンは2017年から店舗管理端末のカメラに顔認証システムを導入しています。

パスワードなどを入力する代わりに、端末にスタッフが顔を向けることでログインすることができ、セキュリティを向上させています。

金融機関

特に情報の取り扱いに厳格な金融機関も、顔認証を取り入れています。

三菱UFJフィナンシャル・グループは、2017年10月に開催されたCEATEC JAPANにおいて、ホロレンズを活用した顔認証技術を展示しました。

ホロレンズ(HoloLens)とはMicrosoft社が発表したワイヤレスで頭につけるタイプのホログラフィックコンピューティングです。

自分がその場にいながらバーチャルな空間と融合した世界が体験できるもので、例えると、スマートフォンなどの画面を通してでないと見えなかったものが、わざわざ取り出さなくともジェスチャーや音声で呼び出してそのまま目の前に浮かんでいるような世界です。

この技術を活用し、営業担当者や融資担当者が利用するタブレットのログオンに顔認証を搭載しました。

これにより、セキュリティの向上だけでなく外出先から顧客情報にアクセスできることで、営業力の強化を図っています。

海外の事例

海外では、また日本と異なる場面で活用されています。

中国

中国ではQRコードによるキャッシュレスの普及などIT化が進んでいます。

顔認証システムも普及しており、Alibaba(アリババ)グループのAnt Financial(アント フィナンシャル)は、杭州のファーストフード店で「smile to pay」というサービスを提供しています。

これは、ユーザーがあらかじめアプリに登録した顔認証を有効にし、3Dカメラで顔を認証を行うことでアカウントから支払いが完了する、というもので電子カードやスマートフォンなどすら必要なく、まさに手ぶらで会計が行えるようになっています。

アメリカ

シカゴ警察は、過去の犯罪者の顔画像およそ450万人分をデータとして管理しており、実際の犯人検挙・防犯に役立てられています。

2013年1月、アメリカである人物が拳銃を突きつけ携帯電話を強奪し逃走するという事件が発生しました。

シカゴ警察は、交通局の監視カメラに映っていた犯人の顔画像を元に顔画像を照会したところ、犯人と見られる人物がヒット。その後目撃者による確認や証拠の収集などの捜査によって容疑者が逮捕されました。

スポーツ観戦

メジャーリーグベースボール(MLB)は7月、生物認証を使ったセキュリティシステム「Clear」との提携を発表しました。

まずは指紋認証から始め、ゆくゆくは顔認証を導入する予定で、これにより紙のチケットがなくなり、スタジアムの待ち時間を解消させることができると予想されています。

さいごに

プライバシーの問題や精度の向上など、解消すべき点はいくつかありますが、顔認証システムは従来の認証方法の課題に対するソリューションとして、我々の生活をより便利に、安全にしてくれるテクノロジーであることは間違いありません。

ディープラーニングにより、今後その精度はますます向上していき、日々の生活のあらゆる場面で顔による認証が行われるようになるでしょう。

顔パスでのオフィスや施設への入場、買い物の支払い、身分証明など、物理的な証明書やカードが一切必要のない世の中が来る日も近いかもしれません。

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この記事を書いた人

石田ゆり
元システムエンジニア・コンサルタント。ERPパッケージソフトウェア会社にて設計から開発、品質保証、導入、保守までシステム開発の一通りの業務を経験し、その面白さと大変さを学ぶ。働く人々を支援するバックオフィス系システム・業務効率化ツール等に特に興味あり。趣味は旅行、ヨガ、読書など。

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