「ノリや流れに身を任せることが大事」 医療系スタートアップCOOが語る起業を成功させるコツ
更新: 2024.07.09
「医療介護のあらゆるシーンを、技術と仕組みで支え続ける」をミッションとする株式会社3Sunny(スリーサニー)は、医療機関や介護施設向け業務支援SaaSの開発・提供を手掛けるスタートアップです。
今回は、株式会社3Sunnyの共同創業者・榎本順彦(えのもと・ゆきひこ)さんに、起業を志す上でのポイントやITスキルの必要性、医療・介護現場の課題をテクノロジーで解決するための事業展開などについてうかがいました。
榎本順彦
えのもと ゆきひこ
1989年生まれ、北海道出身。中学2年時に囲碁の全国大会に出場し、院生としてプロの囲碁棋士を目指すが挫折。その後はイギリス留学を経て大学を卒業、リクルート、AIベンチャーにて勤務ののち2016年に共同で株式会社3Sunnyを立ち上げ。COOとして、経営管理、採用、広報、アライアンスなど幅広い業務を担う。
この記事の目次
起業家に必要なのは教養としてのITスキルと「やってみる」精神
— 榎本さんが起業を志す上で、大切にしていたことはありますか?
将来起業するために、私はいつも2つのことを意識していました。
1つは「とにかく何でもやってみる」の精神で、少しでも気になったことは即挑戦すること。これは、実行の先にしか成長も成功もないと考えていたからです。アクションはどんな小さなことでも良いから、毎日企画してとにかく行動習慣をつけることを意識しました。
もう1つは、人とのつながりを大事にすることです。将来のために新しい知識を吸収したい、何かにチャレンジしたいと思っても、1人では何事も限界があります。だからこそ、普段から仲間を大切にして、良い関係づくりを心がけていました。
そうすることで、人も情報も不思議と集まってくるもの。3sunnyの立ち上げも、仲間とのつながりから実現したものです。
— スキル面で「これは身につけておくべき」というものはありますか?
プログラミングなどのITスキルは必ず身につけておくべきですね。起業するかしないか、エンジニアかそうでないかに関わらず、今の時代の必須教養と言えると思います。
IT系のスタートアップが次々に出てきた2015年頃、私は「これからは絶対にITの知識が必要になる」と考えてITベンチャーへ転職しました。そこでは、Google AnalyticsやGoogle BigQueryを扱ったWeb解析のプロダクトなどを担当して、数字やデータの分析ノウハウを一通り覚えることができました。
またUdemyなどでプログラミングを独学することで、経営者として必要なIT知識をある程度身につけられたのが良かったと思います。
— 習得したITスキルや知識は、起業する際に役に立ちましたか?
はい。プロダクトの作成や業務プロセスの改善、エンジニアとのコミュニケーション、お客様との商談など、あらゆる場面で活きていると思います。
例えば、業務効率を上げるために「このツールに◎◎の機能をつけたい」という話が出た場合も、IT知識があれば、エンジニアと相談しながら必要なコストや工数を考慮した上で適切な判断ができます。お客様との商談でも、技術的な知識をもとにより具体的なサービスの提案ができるので、相手側の納得感や信頼感も得やすくなるでしょう。
ITスキルといっても、例えば0からプロダクトを作れるようになる必要はありません。基本的な知識があるだけで、物事の見え方が大きく違ってきます。特に、業務上の課題に対して「これってプログラムで解決できるのでは?」と考え、いかに物事を効率良くするかという視点を持てる点が大きいと思いますね。
これは業務やマネジメントの効率化にもつながる、とても大切な要素ではないでしょうか。
日本の医療・介護問題をテクノロジーの力で解決 あらゆるシーンを技術と仕組みで支え続ける
— 改めて事業について聞かせてください。榎本さんたちが立ち上げた3sunnyでは、どのような事業を手掛けているのですか?
私たちは「医療介護のあらゆるシーンを、技術と仕組みで支え続ける」をミッションに掲げ、日本の医療・介護現場が抱えている課題をテクノロジーの力で解決するための事業を展開しています。
主に手掛けているのは、医療ソーシャルワーカーや退院調整看護師の方々が利用するSaaS型の医療・介護機関向けWebサービスや、高齢者向けの介護施設・住居探しの支援ツール。
ITを活用して医療・介護業界で働く方々の生産性を上げることで、患者さんの医療体験をより良いものにできると思うんです。それにより1人ひとりが自分らしい人生をまっとうするお手伝いをしたいと考えています。
— 医療・介護機関向けWebサービスとは、具体的にどのようなものでしょうか?
患者さんが退院後に利用する医療施設や介護施設の検索・受入れ手配などの調整業務を、医療・介護機関の方々がスムーズに行うためのツールです。
例えば、高齢者が病気や骨折などで入院した際には「治療が終わったからあとは家に帰るだけ」とはなりません。退院した後にも、リハビリ施設への転院や老人ホームへの入居、在宅での治療が必要になる場合があります。
その時に必要な受け入れ施設の検索、空床の確認、患者さんごとの退院スケジュールの調整といった業務を、Webサービスを利用することで大幅に効率化することができます。
— なぜ、未経験の医療・介護分野で事業を手がけようと思ったのですか?
もともと、起業をするからには「社会の課題解決に貢献できる事業をしたい!」という思いがありました。医療・介護は誰しもが直面するテーマであり、高齢化が進む日本では特に大きな課題となる領域です。そこに大きなやりがいを感じたんです。
そしてもう1つ、体調を崩した家族を介護したこともきっかけになりました。介護をする中で、施設や介護士との連携で様々な不安や不便さを体験し、オールドエコノミーと呼ばれるこの業界に大きな課題感を感じました。
このことがあって「皆が安心して医療や介護を受けられる環境をつくらねば」という思いが一層強くなりました。
本当に喜ばれ使ってもらえるサービスを届けたい その思いから生まれた「医療資源Googleマップ」
— 榎本さんは囲碁のプロ養成機関に通っていたとか。経歴がとてもおもしろいなと感じました。
ありがとうございます(笑)たしかにちょっと変わっていますね。10代の頃に囲碁のプロ養成機関に通って挫折してからは、心機一転、留学先のイギリスで自分と将来を見つめ直しました。
イギリスでは、35歳を越えてから勉強をするために大学に通う人などとの出会いがあり「人生って、後からどうにでもできるものなんだな。自分ももっと楽しもう!」と思えたんです。脳天気で楽天的なある意味経営者向きの価値観は、ここで培われたのかもしれません。
大学卒業後はリクルートを経てITベンチャーに入社しましたが、家族の介護をするようになってからは、3ヶ月ほど実家の札幌と東京を行き来しながらフリーランスとして働いていました。そこでに声をかけてくれたのが、今の3sunnyの代表です。彼と私ともう1人の立ち上げメンバーはリクルート時代の同僚で、この3人で起業をしました。
今は4年目を迎えていますが、Webサービスは提供開始2年で220を超える医療機関に導入され、チームも約15名規模に増えるなど順調に成長を続けています。
— 3sunnyでは、立ち上げ当初から今の事業を手掛けていたのですか?
医療・介護をテーマに様々なサービスの試行錯誤を繰り返し、今のプロダクトにたどり着いたのは2年ほど経ってからですね。「どの分野に特化するのか」「今はニッチでも数年後に需要が高まりそうな領域は何か」などと、色々な事業の方向性を考えていました。
その中でも、ただ1つ決めていたのが「現場のスタッフに本当に喜ばれ使ってもらえるサービスを生み出そう」ということ。
電子カルテなどの医療系システムは「これを使います」という指示が経営層からトップダウンで降りてくることが多くあります。ただ、必ずしも現場のニーズに応えるツールではなく、全く使われないという非効率なことが度々起きています。
医療・介護の環境を本当の意味で良くするためにも、私たちは現場で働くスタッフの声に寄り添ったサービス開発を目指しました。
— 現在提供しているWebサービスも、現場で働くスタッフの要望から生まれたものなのでしょうか?
はい。病院でソーシャルワーカーや事務員の方にヒアリングをする中で、医療・介護機関同士の調整やコミュニケーションの非効率さを知ったことがきっかけでした。
例えば、患者さんの受け入れ先を探す際には「街のどこに医院があってどのような治療ができるのか」といった地域の医療資源の情報が必要になります。しかしこれらはGoogleマップ等にも記載がなく、一部のエリアで配布されている紙冊子を使って調べる必要がありました。
空床のある施設を見つけるにも複数箇所に電話で問い合わせる必要があり、1つひとつの手続きにとても手間がかかっていたのです。
こうした実情を知って「医療・介護機関に必要な情報を一元管理できる『医療資源Googleマップ』をつくろう!」と考え、今のWebサービスが生まれました。厚生局が発行しているレポートや紙媒体から集めた各地域の医療・介護機関データを一括で検索・閲覧できるほか、空床・受け入れ確認のアシスト機能や業務管理機能などを備えています。
現場のスタッフからは「これは便利だね!」「業務の手間が減って助かっているよ」と喜んで使ってもらっています。
「時にはノリや流れに乗ってみる」 前のめりな挑戦の積み重ねが夢の実現につながる
— 今後の展望など、将来に向けて考えていることがあれば教えてください。
近年コロナ禍の影響で「地域医療連携」という言葉をますます耳にするようになり、病院や介護施設同士が連動していこうという流れが起きています。これは私たちが以前から注力していたことでもあり、事業がより社会から求められるようになってきたと感じています。
ただ、私たちが今手掛けているプロダクトは、あくまで医療・介護の課題を解決する手段の1つでしかありません。ですので、今後提供するサービスの形は必ずしもWebツールではないでしょう。これからも型にとらわれずに、最前線で戦う医療介護従事者の方々を支えるために何ができるかを考えながら、課題解決に貢献していきたいですね。
医療・介護分野は独特な世界でかつ課題のスケールが大きいので、難しい部分もありますが、一方でまだまだITが浸透しておらず余白があるので、チャンスも大きいと感じています。今後は、一緒にこの課題に取り組んでもらえる仲間も増やしていく予定です。
— 最後に、起業をしたいと思っていてもどうしても一歩を踏み出せない方にメッセージをお願いします。
なにかに挑戦する際には、ついあれこれと迷って立ち止まってしまいがちです。しかし、起業するため、成長するために必要なのは、とにかく実行してみること。私も今でこそ迷いなく大きな決断ができるようになりましたが、これは決して楽観的な性格だけによるものでなく、小さな挑戦をコツコツと続けてきたからこそです。
悩んでいる時間からは何も生まれません。1,000時間悩み続けるよりも、小さなことを1つでも実践した方が1,000倍多くを得られると私は思います。
起業から4年経った今に改めて思うのは、勢いでやったこと、とりあえずやったことも、今振り返ると貴重な経験であり「挑戦してみることがとにかく重要なんだ」ということです。人生においては「時にはノリや流れに身を任せて思い切ってやってしまえ!」という勢いも大切。だからこそ、今後も前のめりな姿勢を大事にしていこうと思っています。
前から気になっていたことに取り組んでみる。何かを新しく学んでみる。アクションは何でも良いと思います。その一歩を積み重ねていくことで、きっとあなたもやりたいことの実現に近づけるはずです。
Interviewer 桜口 アサミ
Writer・Editor・Photo 篠崎 友耶
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