【夏野×真子】「すべての人」がプログラミングを学ぶべき理由
更新: 2022.05.02
こちらの記事は、2020年6月23日にNewsPicksで公開された内容です。記事内の見解や数値は2020年6月23日時点のものです。
2020年4月、小学校でのプログラミング教育必修化がはじまった。学校教育の現場の動きだけでなく、「テックキャンプ」のような大人向けプログラミングスクールも活況だ。なぜ今、これほどにプログラミングに注目が集まっているのか。
子どもだけでなく、「全世代」がプログラミングを学ぶべきというドワンゴ代表・夏野剛氏と日本最大級のプログラミングスクール「テックキャンプ」を運営するdiv代表・真子就有氏の対談から、ビジネスパーソンがプログラミングから身につけるべきスキルやマインドセットを明らかにする。
この記事の目次
テクノロジーを「味方」にできるか
夏野:日本の生産性が上がらない最大の要因、それは「テクノロジーの食わず嫌い」にあると思っています。
理系・文系をわけて考える日本特有の教育制度が、「テクノロジーは理系の領域」「文系だからプログラミングはできない」という概念を生み出してしまった。教育現場の刷り込みによる弊害です。
プログラミング教育が子どもたちにもたらすのは、「コンピューターを自分の味方につける力」でしょう。コーディングできること自体が重要なのではなく、この便利なツールを拒否感なく自然に使いこなせること。これに幼い頃から慣れておくことが重要です。
真子:必修科目の一つになることで、ようやく、誰もが当たり前の知識としてプログラミングを身につける時代がやってきます。
この動きは遅すぎるぐらいで、10年前に始まっていてもよかった。
従業員数、YouTubeチャンネル登録者数は2020年6月時点の数値です。
新たな“教養”としてプログラミングが台頭
真子:学校教育での必修化の波と同時に、ビジネスパーソンがプログラミングを“教養”として学ぶ動きが、この数年で急速に広がってきたと感じています。
私が、2014年に短期集中型のプログラミングスクール「テックキャンプ」をスタートした当初は、自らの手でサービスを作り出したいアントレプレナーを対象にしていました。
しかし、2017年頃から、非エンジニアであるビジネスパーソンや経営層、学生など、業種や職種、年代を問わず、驚くほど幅広い層からの申込みが増えてきました。
プログラミングはいまや「目的のための手段」ではなく、「現代人として必要な知識」ととらえられ、そのために時間やお金をかける人が増えています。
夏野:当然の流れだと思います。そもそも、みんなプログラミングを難しく考えすぎですよね。
身近なコンピューターを使えるようになるためのごく初歩的な言語、と思えばこれほどいい教養はない。発音の難しさに悩まされることもないので、新たな外国語を学ぶよりずっと簡単です。
しかも、「この言語でアプリやWebが作れます」と言えれば、就職活動でも圧倒的に有利になる。自分の価値を高める、すごくいいツールだと思います。
真子:まさにそうですね。私たちを取り巻くあらゆるWebサービスはプログラミングでできています。
自らプログラミングすることで、「あ、動いた!」「世の中のものってこうやって動いていたんだ!」という感覚を得ると、新しい世界が見えてくる。
夏野:人って、自分が経験したことには肯定的になりますよね。プログラミングも同じです。実際に手を動かしてやってみると、本を読んでわかったつもりになっているのとは、圧倒的に違う学びがある。
学びの本質は「プロセス」にある
夏野:ただ僕がプログラミング教育で心配しているのは、その教え方です。大学入学共通テスト(旧センター試験)のサンプル試験を見て唖然としてしまったのですが、「ここに入るべきコマンドは何か」なんて穴埋め問題がたくさん並んでいて、暗記科目になってしまっていた。これでは意味がありません。
プログラミング教育の本質は、論理的な思考を学ぶ訓練です。
ロジックが一つでも間違っていれば、何も動かない。動けば正解であり、その答えを導き出すために、根拠を一つひとつ積み上げていくプロセスに意味がある。
真子:海外の小学校では、「マインクラフト※」がプログラミング教材の最初の入り口になっていますよね。論理構造を学ぶ上で、日本の教材もすべてこれでいいのでは。「友達より早く、こんなプログラムができた!」と競い合いながら学ぶおもしろさがあります。
※マインクラフト:「Minecraft Hour of Code(マインクラフト アワー・オブ・コード)」。世界中の子どものプログラミング学習を支援する団体「Code.org」(コードオルグ)が提供するプログラミング入門教材。ゲーム内のキャラクターを動かしながら、プログラミングの基礎を学ぶ。
夏野:同感です。友達に勝ちたいという目的があることで、学習速度もより高まっていく。
プログラミングは、その「経験」が大事なんです。
今、トレンドの言語も、コンピューターの処理能力が上がれば不要になるかもしれない。小学生が学校で学んだことを10年後、20年後にそのまま生かせるわけではない。でも、その時点で最新なものを使いこなした経験があればいい。
真子:まさにそう思います。プログラミングはいくつもの変数を同時に扱うものです。「一つの正解」を求めるような学び方は合わない。
たとえば、ある状態を作りたいと思ったとき、アプローチの仕方は常に無限にあります。
とりあえず早急に動くものを出したいというフェーズであれば、どう判断するのか。変数の多さを自分なりにどう解釈するのか。プログラミングの本当のおもしろさや価値は、点数化されるものではない。
夏野:実際に、エンジニアの能力値の点数化って、世界のどこを見ても進んでいないんですよね。もっとも点数化できそうな仕事の一つ、という印象を持っている方が多そうなのに、おもしろい。
真子:最近、テックキャンプの参加者を見ていて、気づいたことがあります。
これは 「短期留学」なんだ、と。
「こういうサービスを作りたい」「こんなプログラムを作って業務効率を上げたい」という目的をもって、手段としてプログラミングを学ぶ方ももちろんいらっしゃいます。
でも、そうした具体的な目的意識がなくても、知らなかった世界に留学することで、自分の立場を客観視できるようになる。
その結果、自分の居場所を改めて好きと思えたり、遠い世界だと思っていたことに親近感を抱いたりする。
今まで高いお金を払って使っていた外部システムに対して「これって高くないか?」と気づかされたり、エンジニアのすごさを改めて実感したりもするでしょう。
論理的思考力がすべての土台を作る
夏野:そもそも「論理的に考えられるようになる」という点だけでも、プログラミングに取り組む価値は十分にある。
エンジニアと話すときに、プログラミングの論理構造がわかっているかどうかで、コミュニケーションの深まり方が違います。
真子:そうですね。どんな仕事でも「因果関係を考える力」は欠かせません。それを支えているのは論理的思考力です。
コードを書いてみたら、動かなかった。ここが違うのかなと仮説を立てるけど動かない。じゃあA、B、Cを優先度が高いところから試してみよう。こうしたフローチャートを描く論理的思考力は、どんな仕事においても必ず活用できます。
夏野:しかも、ロジカルシンキングについて書かれた本は論理的思考がなくても読み進められますが、プログラミングは論理的に作らないとまったく動かない(笑)。
そこで試行錯誤することの学びはすごく大きいと思います。
論理的な思考ができるというのは、すべてにおける基本土台です。たとえば、スポーツ選手だって、行動と結果を緻密に結び付けてパフォーマンスを上げていくためには、論理的なプログラミング思考がなければいけない。
真子:まさに一昨年、本田圭佑さんにテックキャンプに参加いただきました。
当初は「トップ選手が?!」とすごく驚き、「うちはプログラミングスクールですけれど、よいでしょうか」と電話で3度も確認しましたが(笑)、カリキュラムをしっかり完了されて、ご本人にも「自社のエンジニアがどんな仕事に向き合っているか理解できた」と言っていただいています。
夏野:加えて、プログラミングを学ぶもう一つのメリットは、技術の変化、サービスの進化への食わず嫌い傾向をかなり抑えられること。
「コンピューターをこんな風に動かせるんだ」という素直な感動が、新しいものに対する拒否感を和らげてくれる。これは、人生にとってものすごく重要です。
真子:プログラミングって、テクノロジーが陳腐化する怖さと変化のスピードをすごく実感させてくれますよね。
「答え」を探そうとしても時代の中でどんどん変わっていってしまう。
大事なのは、自分の中で仮説を立て、「こうしたらおもしろいんじゃないか、役立つんじゃないか」と考える能力です。
これだけ変化していく世の中では、「問いを作る力」が大事になるんじゃないかと思います。
必修化は大人に向けたメッセージである
夏野:僕は、学校教育でのプログラミング必修化は、大人に対する強いメッセージだと思っているんです。
「小学生でも習う内容を、君たちはやっていないんだよ」と。
今からでも遅くない、大人も全員が学ぶべきであるという勧告としてとらえなきゃいけない。
真子:最近、新規上場している会社を見渡してみても、ほとんどがテクノロジーの会社です。「エンジニアが主役」の流れはもはや否定できません。
あとは、その事実に目を背けるか背けないか。道具を作る側に回るのか、使うだけなのか。やってみようと動き出すのは今がギリギリのタイミング、ラストチャンスなんじゃないかと思っています。
夏野:プログラミングに関わらず、興味を持ったことに対し、「でも、今は忙しいから」「仕事にはすぐ必要ないから」と自分の心にブレーキをかける人がいますが、“決断の先延ばし”は時間がもったいないだけです。
会社のせい、社会のせい、タイミングのせいにしてチャレンジしない「言い訳」を並べている人は、いつまでたっても何も生み出すことができない。
どんな世の中であっても、チャンスを掴む人は掴んでいくのだから、まずは言い訳をやめること。理系・文系、男性・女性、年齢など、属性や経歴はもう関係ない。いつから学んだって遅いことはありません。
真子:私はテックキャンプを通じて、自分に自信を持ち、毎日楽しく仕事をしている人を増やしたいと思っています。
自分はアナログ人間だと思っていたけれど、テクノロジーの世界でも戦えるんだ。自分でも、プログラミングをおもしろいと思えるんだ! そんな発見を通して、人生を変える機会を作っていきたいですね。
プログラミングなんて自分の仕事とはかけ離れている。そう思い込んでテクノロジーと距離を置いてきた方ほど、一度体験してみてほしいですね。
構成/田中瑠子 編集/樫本倫子 写真/竹井俊晴 デザイン/岩城ユリエ
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