人工知能(AI)として知られるIBM Watsonが料理に活用されていることをご存知ですか?
「シェフ・ワトソン」と名付けられたこのアプリケーションは、人間には思いつかないようなおいしいレシピを提案することで大きな話題を集めています。そこで今回は、シェフ・ワトソンの仕組みや使い方をはじめ、活用事例まで紹介します。
この記事を読んでシェフ・ワトソンの魅力を理解して、あなたも人工知能を利用した料理づくりを体験してみてください。
この記事の目次
シェフ・ワトソンとは
出典元:IBM Chef Watson
IBM Watson(ワトソン)がシェフになり、料理界に進出しました。その名も「シェフ・ワトソン」。まず、その概要についてご説明します。
IBMとボナペティ社が共同開発
シェフ・ワトソンは、IBMとボナペティ社が共同開発を行った人工知能を活用したアプリケーション。
ボナペティ社は、アメリカで料理雑誌を出版している会社です。
シェフ・ワトソンは、人工知能の学習機能を使って料理の情報をたっぷりと蓄積しています。さらに、9000以上のボナペティ社のレシピも分析。
そのような調理に関するさまざまな情報を自然言語処理技術によって取り込み、食品の組み合わせや調理のパターンを生み出すのです。シェフ・ワトソンは、ロジカルで多角的に料理のデータを組み合わせた最適で独創的なレシピの提案を実現しています。
人工知能(AI)が考える料理のレシピ
シェフ・ワトソンはユーザーの要望から既存のレシピの導き出すのではなく、データから独創的な新しいレシピを提案します。つまり、得た情報を活用して、要望に合ったレシピを自分で考えているのです。
人工知能が考える料理のレシピと聞くと、不安と期待を感じる方も多いかもしれません。もちろん、シェフ・ワトソンのレシピは完璧ではありません。しかし、多くの料理で人間が思いつかないような斬新でおいしい料理の提案を実現しています。
これは、科学の知識を料理に活用するロジカル・クッキングや分子ガストロノミーが注目を集めていることを考えると、とても自然なことではないでしょうか。また、おいしい料理を人工知能が模索するという点もとても新しく感じます。
シェフ・ワトソンの特徴
シェフ・ワトソンにはどのような特徴があるのでしょうか。思わず使ってみたくなるその魅力を詳しく紹介します。
人間の料理に対する創造性を高めるアプリ
毎日の食事づくりにおいて、違うレシピを考え続けることはとても大変です。レシピをローテーションしても、時には何も思いつかない時もあるでしょう。
そのような場合にシェフ・ワトソンを活用すれば、食材に合わせてさまざまなレシピを提案してあなたを助けてくれます。普段使っている食材であっても、まったく思いもよらないレシピを教えてくれるかもしれません。
また、はじめて試す食材の使い方を知る上でも、シェフ・ワトソンはとても便利です。
意外性のあるレシピの提案が強み
人間では思いつかないような意外性のあるレシピをロジカルに考えられる点がシェフ・ワトソンの強み。食べ物に関する固定観念を覆してくれます。
マヨネーズは酸味とコクがある素材です。サワークリームやリンゴジュースは酸味があり、バターはコクがあります。それらの材料とマヨネーズが上手く調和して、酸味があって斬新だけれど、しっかり美味しいトリュフ・チョコレートになったんだと思います。
上記は食材の栄養の情報を分子レベルで蓄積し、幅広いレシピから学習を行うシェフ・ワトソンだからこそ考えられるレシピと言えるでしょう。これは食に対する可能性を広げるかもしれません。
日本語のレシピを紹介
下記のクックパッドのサイトにシェフ・ワトソンが提案したレシピが日本語で掲載されています。自分でも作ってみたいという方はぜひ参考にしてみてください。
IBM シェフ・ワトソンと一緒に作る!家族が喜ぶ新作レシピ 【クックパッド】
完璧なレシピではない
実は、シェフ・ワトソンのレシピは完璧ではありません。あくまでも、蓄積したデータから提案を行っているだけという見方もできます。
また、料理における化学反応がすべてインプットされているわけではないのです。実際に使ってみるとわかりますが、食材の分量などは調理する人に委ねられる場合もあります。
シェフ・ワトソンのレシピを参考に、調理を行う時はどのように仕上げるか人間が考える必要性があるのです。そこが人工知能を使って料理を作る面白い部分でもあるでしょう。
また、蓄積したデータベースに影響されることもあり、しっかりと人間が指示を行わないと求める結果が得られない場合もあります。
シェフ・ワトソンの使い方を解説
シェフ・ワトソンを実際に使ってみたいという方もいらっしゃると思います。以下で、使い方について解説していきます。英語のサイトのみなので、英語で操作しなければならないのが少し大変ですががんばりましょう。
食材からレシピを探す
「LOOK FOR INGREDIENTS」をクリックして、希望の食材をクリックすれば合わせる食材が表示されます。また、そこから食材を選ばずに直接入力することも可能です。たったこれだけで下にスクロールすればレシピが表示されます。
料理の種類やスタイルを選ぶ
食材のみの指定だと種類が幅広いため、自分好みのレシピが見つけられない場合もあるでしょう。そのような時には、「パン」「グラタン」などの料理の種類や「イタリア料理」「ハラル」などのスタイルを選ぶこともできます。
これにより、自分が求めるレシピを効率的に見つけられるでしょう。もしも、基本の食材を変えずにもっと違った料理が知りたい時には、「MORE」を押せば違う食材の料理が見られて便利です。
気に入ったレシピは保存やシェアもできる
気に入ったレシピを見つけた場合には、自分のアカウントで保存したり、SNSでシェアしたりできます。時間のある時にレシピを調べて、気になった料理があれば保存しておくといった使い方もできます。そこからレシピを選んで調理すれば、とても効率的に調理が楽しめるでしょう。
レシピ本も発売
シェフ・ワトソンは、レシピ本も発売されています。このレシピ本はIBMとICE(Institute of Culinary Education)という料理教育研究所が協力して作られました。しかし、残念ながらこの本は英語のみの発売となっています。
シェフ・ワトソンの仕組みについて
出典元:IBM
どのようにしてレシピができているのか気になるという方もいらっしゃるでしょう。次に、シェフ・ワトソンの仕組みについて詳しくご説明します。
IBM Watson(ワトソン)がベース
シェフ・ワトソンはIBM Watson(ワトソン)という人工知能がベースになっています。シェフのワトソンなので、シェフ・ワトソンです。とてもわかりやすい名前だと思います。
ワトソンはビジネス向けのアプリケーションが開発しやすいようにAPIのアップデートも積極的に行っています。そして、柔軟性があり拡張性も高いクラウドがベースとなっている点も特徴です。
ワトソンは使う人の幅広いニーズに応え、ビジネスを中心とした様々なシーンでの最適なソリューションを提供するAIプラットフォームと言えるでしょう。
自然言語解釈機能
自然言語解釈機能によって非構造化されたデータの文脈や文法を読み取り、ワトソンなりの解釈を行って情報として蓄積します。
そのような言語に対する柔軟な理解とアルゴリズムによって、ワトソンはロジカルで的確な解答を導き出します。それはシェフ・ワトソンの的確で斬新なレシピの解答にも生かされています。
コグニティブ(認知的)コンピューティング
ワトソンは、2011年にクイズ番組「ジョパディ!」でクイズ王ケン・ジェニングスを破ったことで話題を集めました。幅広い分野で活用されている人工知能です。
このクイズ番組は問題と答えが逆になっているユニークな番組です。1つの言葉からそれに関わる答えを導き出すにはあいまいな言葉への理解や、知識や表現の組み合わせが必要になります。ワトソンは短期間でWikipediaの情報とクイズのスキルを身につけて、それを応用することでクイズに対応しました。
ワトソンがコグニティブ(認知)コンピューティングと呼ばれるのは、ただデータを取り出すのではなくその状況を認知して答えを新たに生み出せるからなのです。
人気の日本酒「獺祭」とシェフ・ワトソンがコラボ
出典元:IBM
若い世代を中心に人気を集める日本酒「獺祭」とシェフ・ワトソンがコラボして話題を集めました。そのイベントの詳細について紹介します。
蜷川有紀のイベントのレセプションパーティー
獺祭とシェフ・ワトソンのコラボは、2017年5月から6月にかけて開催された蜷川有紀さんの展覧会「薔薇の神曲」のレセプションパーティーで実現。
展覧会の協賛企業である旭酒造の人気の日本酒である獺祭を使い、蜷川有紀さんの作品をイメージした料理が提供されました。その人間でも難しいレシピ作りにシェフ・ワトソンは挑んだのです。
このパーティーでは、シェフ・ワトソンとプロのシェフが考えたレシピの料理が提供されました。その結果、3品中2品でシェフ・ワトソンのレシピが「美味しい」という評価を獲得したのです。
一流シェフにインスピレーションを与えることも
人間では思いつかないレシピによって結果を出したシェフ・ワトソンですが、その中には失敗もありました。それは、「ライスミルク」という食材が日本と海外では成分が異なったことが原因として考えられています。
人間であれば、その違いを経験から調整できますがシェフ・ワトソンには難しかったようです。そこで、料理長が素材を若干変更してアレンジを加えたところ、とても美味しい料理に仕上がるという結果が得られました。
これは、どちらが欠けても生まれなかった料理と言えるでしょう。このように、食材の組み合わせなど決められた枠組みにとらわれないシェフ・ワトソンのレシピは、一流シェフにも刺激を与えるのです。
IBM Watson(ワトソン)のシェフ以外の活用事例6選
出典元:IBM
人工知能であるワトソンは「シェフ」としてだけでなく、幅広い分野で利用されています。その代表的な活用事例について紹介します。
医療
ワトソンを使った事例として、まず医療への活用があげられます。東京大学医科学研究所がワトソンを使い、急性骨髄性白血病の患者を救ったことは大きな話題を集めました。これは、けして偶然ではありません。
IBMは癌専門の医療機関や先端医療技術を開発する機関と提携して、医療に関する大量のデータをワトソンに学習させました。それを元にワトソンは医師のサポートを行っています。現代ビジネスによると、ワトソンはその医療の現場における関わった事例の内の30%で人間では思いつかなかった治療法を見出しています。こ
れが医療関係者に与えた衝撃が小さくないことは想像に難しくないでしょう。それだけでなく、ワトソンは新薬の開発やがん診断支援にも使われています。
業務効率化
ソフトバンクでは、AIやIoTの導入による業務の効率化を積極的に行っています。「カスタマーからの問い合わせ対応」「料金・サービスの提案」「社員選考」など、幅広い用途への活用にソフトバンクは取り組んでいます。
その中で行われた効果的な活用方法が、ワトソンによるネットワーク監視です。
ネットワークは365日稼働し続ける必要があります。そのため、ネットワークは24時間の常時監視を行います。たとえ、深夜や早朝であってもトラブルが発生した際には対応する必要がありました。
それは、単純にケアするというわけではなく、モニタリングしたデータから問題の箇所の切り分けを行う必要がありました。
ITmediaによると、このネットワーク監視にワトソンを導入することで、それまでかかっていた時間の10分の1に短縮できたとあります。
性格診断
ワトソンを活用してTwitterなどのテキストを読み込み、わずか10秒で性格診断を行うというサービスも提供されています。
人は会話によってコミュニケーションを取ることで、相手がどのような人間科知ることができます。通常であれば、それを文字から知るのは難しいことではないでしょうか。
しかし、「Personality Insights」はテキストからその人の特性をピックアップして分析を行い、正確な性格診断を行います。
その人物の傾向や個性・欲求・価値まで詳しくわかるので、企業と就職希望者のマッチングやカスタマーのニーズの分析などに役立つでしょう。また、就職活動の自己分析にもとても便利です。
金融業界
金融業界では、ワトソンの質問に対して適切な回答をする機能が利用されています。ワトソンによって財務の見通しや金融におけるリスク管理をサポート。それぞれの顧客に応じたアドバイスを行っています。また、質問内容を回答するだけでなく、その質問についてもワトソンは学習していきます。
法務
ワトソンは法律の膨大なデータを学習することで、弁護士などに聞かなくても利用者が簡単に質問の回答が得られるサービスにも役立てられています。
自然言語処理機能により利用者の質問を理解して、それに関連する法律を回答します。法改正などがあっても、素早く柔軟に対応できる点も魅力です。この法務に関する活用は、シンガポールの内国歳入庁でも採用されています。
販売のサポート
ユーザーのそれぞれのニーズに合わせた商品や体験を提供することは販売においてとても重要です。ワトソンはアンケートや利用データからユーザーの好みを分析。それにより、適切なタイミングで製品を提案し、意思決定までの工程をよりスムーズにします。
アウトドアブランドとして知られるNorth Faceでは、使用方法のアンケートを行ってワトソンに学習させ必要となる機能を持った製品をスピーディーに見つけられる環境を構築しました。
まとめ
今回は、ワトソンによるレシピの提案を行うアプリケーション「シェフ・ワトソン」を中心に紹介しました。
膨大な料理に関するデータを分析し、ユーザーの状況に合わせて独創的で最適なレシピを提案する機能はとても興味深いです。
しかし、土地ごとの食材の違いの認識や細かい分量の指定など、シェフ・ワトソンは完璧ではない点もあります。人間がシェフ・ワトソンのサポートを受け、効率的に新しい美味しさを追求できるととらえると、未来の料理へのさらなる可能性を感じないでしょうか。
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