新たにビジネスを始めようとした場合、特にIT系では大変な作業量に気が遠くなることがあります。
プラットフォームからなにからを全て構築しようとすると、開発にかかる工数が非常に膨大になるからです。そんな時、既にあるプラットフォームの上でサービスを展開できれば、格段に開発が楽になります。このように既にあるアーカイブやプラットフォーム、知識・スキルなどを活用することを「巨人の肩の上に立つ」と言います。
今回は「巨人の肩の上に立つ」というキーワードを通じて、新しいビジネスの立ち上げ方について考えてみましょう。
この記事の目次
巨人の肩の上に立つ(standing on the shoulders of Giants)とは
身の回りに巨人がいるという人はいないと思いますが、もしいたらどうでしょう。その肩に乗れたら、どんな景色が見えるでしょうか。きっと自分では見られない、はるか遠くまで見渡せる素晴らしい景色が見えることでしょう。
この「巨人の肩の上に立つ」という言葉は、アイザック・ニュートンが科学の進歩について語った際の言葉だと言われています。
先人の積み重ねた発見に基づいて新しい発見をすること
アイザック・ニュートンは同じ科学者であるロバート・フックへ当てた手紙の中で、「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです。(If I have seen further it is by standing on the shoulders of Giants.)」と書いています。
これは現代の解釈では「先人の積み重ねた発見(成果)に基づいて、新しい発見を行う事」とされています。新たな成果は、過去の成果や知識の上で生まれるという考え方とも言えます。
何度も同じことを一から繰り返す「車輪の再発明」の対極にある言葉と言っても良いでしょう。
「巨人の肩に乗る」「巨人の肩の上に立つ矮人(わいじん)」とも言う
この「巨人の肩に乗る」ですが、もともとは「巨人の肩の上に乗る小人」または「巨人の肩の上に乗る矮人(わいじん)」という言い回しもされています。
西洋のメタファーで、巨人は「先人の積み重ねた発見(成果・知識)」であり、矮人は「その上で発見された新たな事実」と置き換えて考える事ができます。
原典はベルナール(ベルナルドゥス)
この「巨人の肩の上に立つ矮人(わいじん)」という表現は、なにもニュートンが言い出したわけではありません。
原典は12世紀のフランスの哲学者、シャルトルのベルナール(ベルナルドゥス)だと言われています。
ベルナール本人がこの言葉を何かに書いているというわけではありません。イギリスの作家・哲学者であるソールズベリーのヨハネスが自著「メタロギコン」の中で、次のように紹介しています。
「我々[現代人]は巨人[古代人]の肩の上に立つ小人のようなものであり、それゆえ我々は昔より多くのものを、より遠くのものを見ることができるのだとシャルトルのベルナルドゥスはよく言ったものだった。そしてこれは我々の視力の精確さや我々の身体の優秀さによるものでは全くなく、巨人の大きさによって上に運ばれ高められているからなのだ。」
学術分野・科学分野で広く使われる言葉
この言葉は、学術分野、特に科学技術の分野では良く使われます。
大きな理由は2つ。1つは、アイザック・ニュートンが使ったということで、有名になったため。
もう1つは「自分の業績は誰かの業績の上に載っていて、そしてその自分の成し遂げた事が、次の世代の礎になる」というアカデミズムの考え方からです。科学を扱う学者・研究者を中心に、この考え方が浸透しています。
Google Scholar(グーグル・スカラ)のトップページに掲出される
「巨人の肩の上に立つ」という言葉は、学術文献の検索サイトである「Google Scholar(グーグル・スカラ)」のトップページにも、全ての言語のページで掲載されています。
Google Scholarは大学や研究機関の学者・研究者や、論文執筆を行う学士・修士・博士課程の学生が利用する機会が多いサイトです。ニュートンの言葉として有名であるため、学術にはこの視点が必要だと説いているのでしょう。
ビジネス分野での「巨人の肩の上に立つ」とは
では、一方でビジネスの分野ではどうでしょう。
この分野で「巨人の肩の上に立つ」というのは、巨大なプラットフォームの力や、インフルエンサーの影響力、資金力などを借りて、ビジネスを行うことだと言えるでしょう。
ゼロから事業を立ち上げるよりも、スモールスタートで始められるなど、事業の滑り出しが容易になるケースが多いためです。起業に限らず、ビジネス(仕事)全般が「巨人の肩の上に立つ(standing on the shoulders of Giants)」ことでスムーズになります。
たとえばWebサービスを立ち上げる場合、自分でWebサーバーを構築しなくても、AWS(Amazon Web Service)を借りてしまえば、最小限の投資で事業を始める事ができます。
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巨人とは何か
とはいえ、この巨人の力を一方的に借りるだけではいけません。つまり一人の巨人の肩の上に、小さな自分がちょこんと乗る、ということではないのです。
先にも書いた通り、「巨人」とは知識のアーカイブ、学術そのもののプロセス。先人の偉大な発見や、発明全てを指しています。これはたくさんの発明者・開発者・先祖や、彼らが残したノウハウの集合体と言い換えても良いでしょう。
ビジネス分野では、巨大なプラットフォームの力を借りたビジネスのことなども指しています。
そして、これを読んでいるあなたも含めてわれわれに求められているのは、その上にさらなる知見やビジネスのアイデアを積み上げていき、後に続く人たちにその恩恵を提供する事でもあるのです。
具体的な、ビジネス分野における巨人の例を見ていきます。
優れたデザインパターン
デザインパターンとはITソフトウェアを作る際に使う型紙のようなもの。過去のソフトウェア設計者が編み出した設計ノウハウを蓄積して、再利用しやすいように規約を作ってカタログ化したものです。
これらを利用する事で、同じ様な動作をするソフトウェアを少ない労力で作る事ができるようになります。
優れたビジネスのノウハウ
優れたビジネスのノウハウも「巨人」です。
例えばトヨタの「カイゼン」は世界中の工場で実践されている非常に優れたノウハウの1つ。
また、ビジネスそのものではありませんが、品質保証規格であるISO9000シリーズ、環境マネジメントのISO14000、食品衛生管理基準のHACCP、ISO22000なども、その企業がビジネスを展開する上で信頼を勝ち得るためのノウハウと言って良いでしょう。
巨大なビジネスプラットフォーム
amazonやアリババ、eBayなどのEコマースプラットフォームも「巨人」と言って良いでしょう。日本では楽天やYahoo!などもEコマースプラットフォームを提供しています。
実際にこのプラットフォームの上で事業を展開しているプレイヤーも多く、宣伝・販売や決済に物流まで一つのプラットフォームでまとめて行えるのは、大変大きなメリットです。
フリーソフトウェア
プログラマの人はフリーソフトウェアの恩恵を受けている人も多いでしょう。
実は「ソフトウェアはフリーであるべき」という理念で、フリーソフトウェア運動が積極的に推進されていた時代がありました。その時の言葉として「巨人の肩に乗る」がフィーチャーされる機会が多かったのです。
リチャード・ストールマンなどを中心に、「ソフトウェアの自由」を多くの人々が享受できる環境を作ろうとしていました。GNUなどはその流れで誕生しましたし、Linuxもその流れの上にあります。
今日の「巨人」の例
では現代ではどのような「巨人」がいるのでしょうか。
ここではIT業界で圧倒的な存在感を示している「デジタルジャイアンツ」と呼ばれる、7つの企業を紹介しましょう。彼らは「巨人」として広く、人々にビジネスの機会を与える「肩」を提供しています。
ただし大手IT調査機関のガートナーは、2020年までにこの7社のうち5社が自社のビジネスモデルをディスラプト(破壊)し、再構築しようとしていると予想しています。どの企業も大きくなりすぎ、自社の既存ビジネスにこだわると更なる成長ができないからです。
言わずと知れた巨大IT企業です。
Googleは検索連動型広告を中心とする広告収入をベースに、様々なサービスを無料(一部有料)で提供しています。GmailやG Suiteなどのビジネス分野で使えるサービスの他、Android OSやChromebookに搭載されているGoogle Chrome OSなどの開発も行っています。
Google Pixelbookなど、ハードウェアの開発にも乗り出しています。
Apple
MacBook、macOS、iPhoneやiPadなどを展開している企業。「Stay hungry,Stay foolish」のフレーズで知られるスティーブ・ジョブズと、スティーブ・ウォズニアックの二人が共同設立者として、1976年に創業しました
iTuneは音楽を提供するのに優れたプラットフォームへと発展。App Storeにアプリを公開する事で収益を上げている企業も数多く存在しています。iOSはAndroid OSと並んで大変優れたビジネス・エコシステムを提供していると言って良いでしょう。
近年は、情報の不正利用などで揺れているFacebook。それでもFacebookの利用者数は全世界で、月間アクティブユーザー数が20億人にも達します。他のサイトに新規ユーザー登録する際にも、Facebook認証を使った事がある人もいるのではないでしょうか。
創業者のマーク・ザッカーバーグの半生は、2010年にデビッド・フィンチャー監督により映画化。「ソーシャル・ネットワーク」は世界的な話題作となりました。
プラットフォーム上で様々なアプリケーションやサービスが展開できるようになっており、広告プラットフォームとしても存在感を発揮しています。
2014年にはバーチャルリアリティ(VR)企業のOculusを買収。VR分野への取り組みにも精力的です。
Amazon
小売り・流通業界の最大手です。オンラインでの売買を行うEコマースサイトを展開していますが、そのシステムは一般企業にも公開され、自社の商品を独自に販売する事ができるようになっています。また、そのサーバーの運用ノウハウを含めて。AWSというクラウドサーバーのホスティングサービスも展開しています。
Baidu
主に中国で使われている検索エンジンを提供している企業で、漢字表記では「百度」と記載されます。検索エンジンとしては、世界第2位の地位を占めています。
また、日本ではスマートフォン用の入力システムである「Simeji」を日本法人が提供しています。
Alibaba
ソフトバンクが出資したことでも知られる、中国のEコマースの巨人です。毎年、「独身の日」には2~3兆円をたった一日で売り上げる事で知られています。また、決済サービス「Alipay(アリペイ)」は中国第1位のシェアを持っています。
日本法人であるアリババ株式会社は、アリババグループとソフトバンクの合弁会社として設立。新卒採用を日本国内で積極的に行っています。
Tencent
そのAlipayに待ったをかけているのが、「微信(WeChat)」を展開するTencentの「WeChat Pay」です。この決済システムをてこに、WeChatはゲームや音楽配信など、様々な事業を展開しています。
巨人の肩の上に立つメリット
さて、ではこれらの巨人の肩の上に立つと、どんなメリットがあるのでしょう。大きく2つに分けて紹介しましょう。
遠くを見て、新しい発見ができる
まず、過去の先人たちの発見や、巨大なプラットフォームのパワーを自分の研究や事業にいかすことができます。
一から全てを発見したり構築するとなると、「車輪の再発明」と呼ばれる、どこかで誰かが作ったものを、自分でまた作り直すという無駄な時間と労力がかかります。
巨人の力を借り、それらの活動を省略する事で、研究内容を深めたり、短時間で事業を拡大するのに役立ち、効率的になります。
一から全てを積み上げる必要がなくなる
例えば、アプリケーション開発を考えましょう。
上でも述べましたが、ライブラリやフレームワークを活用せずに、一から全ての機能を作り込んでいくと、ものすごく手間がかかります。フリーのライブラリやフレームワークといった「巨人」を活用すれば、より短時間で同じ機能を持つソフトウェアを開発できます。
これはインフラも同様です。オンプレミスのサーバーを用意し、OSのインストールからミドルウェアの構築をして…という作業をしなくても、AWSという巨人を使うことで、開発効率を上がる事ができます。
巨人の肩の上に立つデメリット
一方、巨人の肩の上に立つ事にはデメリットもあります。最も大きいのは「依存してしまう」ことでしょう。
巨人に依存してしまう
例えばデザインパターンは「利用するだけ」。その上で、独自でシステムやプログラムを開発しているのであれば「100パーセント巨人に依存している」ことにはなりません。
しかし、フリーのライブラリやフレームワークに完全に依存するとなると危険です。それがメンテナンスされなくなった時に、誰もバグの修正をしてくれないという問題が発生します。
またライブラリやフレームワークを使っての開発しかしていない場合には、これらなしではアプリケーション開発ができないエンジニアになってしまう可能性もあります。
ビジネス面で言えば、プラットフォームの変化に弱くなります。例えばamazonで物販を行っているとすれば、amazonが少し手数料を値上げするだけで、ビジネスに致命的なダメージが発生する可能性もあるのです。
もちろんデジタルジャイアンツの、既存ビジネスモデルの破壊と再構築に巻き込まれてしまうという危険性もあります。
巨人の肩に乗る際に必要なこと
紹介してきたメリットやデメリットを踏まえ、起業や独立を現在検討していている方々に「巨人の肩の上に立ちたい」時に気をつけておくべきことを紹介したいと思います。
自分自身のコンテンツやスキル、サービスはしっかりしているか
例えばビジネスの場合、デジタルジャイアンツを含む「巨人」がビジネスモデルを変えた時、引きずられて沈没してしまうようなビジネスは望ましくありません。
いざというときには、「巨人」が提供していてくれた部分を他のものに変更するような柔軟さが必要。「AWSがダメでも、Azureに変更するだけで、サービスを継続可能です」というような形になっているべきです。
ビジネス以外でも同様です。コンテンツ制作やプログラミングでも、自分自身には何もコンテンツやスキルが残らないようでは、ただ巨人に寄生しているだけになってしまいます。
やはり基礎・基本は必ず身につけておく必要があります。
巨人に対して、提供できる対価や労働力はあるか
巨人の肩の上に立つのであれば、さらに自分も何かしらの貢献があってしかるべきです。
例えば、クリエイティブや創作の分野の場合。コンテンツには、Creative Commons License(CCライセンス)という著作権の形式があります。CCライセンスで写真やグラフィック、音楽などを公開しているクリエイターの間には「作品を無料で使っても良い代わりに、それを使って制作したコンテンツもフリーで公開してください」という文化があります(※)
同じようなライセンスは、プログラミングの分野でも存在しています。一例はApache License。Apache Licenseはソフトウェアの頒布や修正、派生版の頒布を制限しないというライセンス形式です。これらを通して、あなたの作ったものが、他の人にも使ってもらえる様にする事が重要なのです。
創作だけでなく、ビジネスの場でも「自分自身の貢献」は極めて重要です。
例えば、貢献の一形式には「手数料」があります。例えば、amazonで物販を行う際には売上に対して一定の手数料が発生します。この手数料も立派な貢献の一つです。
もしあなたが起業やサービス開発などを検討しているのであれば、巨人に対してなんらかのコラボレーションの提案をするというのも良いでしょう。単に巨人に寄生するのではなく、自分自身が成長し、巨人と対等にビジネスができる関係になることは極めて理想的です。
※ CCライセンスは一定の規約を守れば商用利用も可能です。商用利用の際のルールは、使用する画像や音楽のマーク(ライセンス)によって異なるため、その都度確認しましょう。
なぜそれをやるか。ミッションや意義は言語化できているか
それを行う意義はあるのか、ということです。「お金儲けのため」というのも、もちろん立派なミッションです。ただやはり「誰かが幸せになる」「人類のため」というような社会的意義が明確にあると、大勢の人に支持してもらいやすくなります。
さいごに
巨人の肩に乗るという言葉の定義や歴史、学術・科学分野やビジネスの現場での使われ方。現代の巨人について解説しました。
巨人とは先人たちの素晴らしい知識・スキル・実績の総体です。いま、当たり前のように自分が使っているサービスなども全ては、先人たちの残した知的財産の一つです。
もしあなたが企業や独立を検討しているならば、あなた自身も後世の人々に貢献する巨人になってください。「これを作った事で、後に続く人が楽になり、よりハッピーになる」ということを目指してください!
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