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「新しい表現・体験の拡張」映像ディレクターがゼロからプログラミング・VRのワークフローを学び、業界最速でHoloLensコンテンツを制作した理由

更新: 2020.10.05

Microsoftが手がけるMR(MixedReality:複合現実)ヘッドマウントディスプレイ「HoloLens(ホロレンズ)」。VR、ARに次ぐ新たなテクノロジーとして注目されているMR。しかし、実際にHoloLensでMRを体験したことがある方は少ないのが現状ではないでしょうか。

そんなMRとHoloLensの可能性にいち早く気づき、コンテンツ開発に乗り出したのが太陽企画株式会社のクリエイティブディレクター/UXディレクター伊原亮氏です。

太陽企画株式会社はTVCM・WEB・MV・プラネタリウムなどの大型映像・ストップモーションアニメなどの制作を手がける総合映像制作会社。

伊原氏は、2018年の日本最大級の広告賞ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSのクリエイティブイノベーション部門でグランプリ/総務大臣賞を獲得した東京大学染谷研究室と大日本印刷共同開発の「スキンエレクトロニクス」のプロモーションを担当するといった高い実績を持つ人物です。

10年以上に渡って第一線で活躍している伊原氏は仕事の傍ら、テックキャンプでプログラミング・VRのワークフローを一から学習。そして、わずか1カ月半でMRコンテンツ「HOLOBUILDER」を制作しました。

伊原氏はプログラミングとVRを学んだ理由を「新しい表現・体験の拡張のため」と語ります。

映像表現になぜ新しい技術が必要なのか。その手段になぜ、MRとHoloLens(ホロレンズ)を選んだのか。これまでのキャリアと、MR開発の裏側を聞きました。

※テックキャンプのVRコースは2019年2月28日に提供終了。今後も高水準な「テクノロジー人材」を育成する最高の環境を提供していきます。また、サービス内容は予告なく変更の場合がありますので予めご了承ください。最新のサービス内容は本サイト(https://tech-camp.in/)をご覧ください。

CM制作の第一人者がMR開発に乗り出した理由

―― 伊原さんのこれまでのキャリアを教えていただけますか?

鹿児島出身で大学は法律学部を卒業しました。鹿児島は超保守、安定志向なので親に小さい頃から公務員になるように言われて育ったのですが、大学入学後あまり勉強せず公務員は断念して、卒業後は北九州の靴の問屋に就職しました。

その会社はコンバースに別注もしておりデザインも担当できるみたいな謳い文句でした。デザインが好きだったので入社しましたが別注は遠い昔の話で3年程営業をしていました。

―― 映像業界に入ったのは、どのような転機があったのでしょうか?

営業時代、自分の担当する店舗にPOPを作りたいと考えたことが転機になりました。

まったくパソコンの知識がなかったので、PhotoshopやIllustratorなどのPOPを制作するスキル習得のために福岡のデジタルハリウッドに通いました。入学当初30人ぐらいのクラスで僕だけ「マウスをドラッグ」の意味すら分からず初日で心が折れました。

仕事をしながら通えるコースがたまたま映像/VFXクリエイター育成コースでカリキュラムの中に映像制作や3DCGの授業もあり勉強していくうちに面白さに気づき、自分の将来の仕事にしたいと思いました。

卒業制作の際に靴の会社を辞めました。卒業後1年間くらいフリーランスとして働き、その後福岡の映像制作会社に入社しました。

太陽企画には、2年前東京に引っ越すタイミングで入社しました。

―― 映像制作をずっと手がけてきた伊原さんが、VR開発に乗り出した理由は何ですか?

自分の中で常に新しいものや面白いものを追求したいという気持ちが強く、映像という枠の中だけでの表現に少し飽和感があって視聴者の目も肥えているので、単純に映像や作品集を見せて「凄い!」と言わせるのって相当ハードルが高いと感じていました。

自分自身で作っていても感動や驚きというのは昔に比べて薄まってきているのを感じていたので、別ジャンルを取り入れるぐらいのことをしないとドラスティックには状況は変えられないと思いました。

僕は3DCGやモーショングラフィックスも長年やってきたので、その経験をVRに水平展開させられれば新しいものができるのではと考えました。

―― VRについて理解できれば、新しい表現ができると考えたのですね。

はい。ただVRもですが体験型やインタラクティブコンテンツなどはプログラミングの知識が必須で、その基礎は最低限理解しておくことが必要だと感じました。

そこでVRとプログラミングを基礎から学びたいと考えテックキャンプを受講しました。2017年3月のことです。

―― テックキャンプを選んだ決め手は何でしょうか?

仕事の空き時間を利用しての勉強だったので、オンラインで学べることとメッセンジャーで質問をすると5分以内に返信してくれるというサポート体制が心強いと思いました。

あと、渋谷に教室があるため休日に集中して学習できるだけでなく、現場で仕事をされている方達の生の意見や情報も聞けるというメリットもあると感じました。

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MRコンテンツ『HOLOBUILDER』制作のきっかけ「MRで踊る小人に衝撃を受けた」

――MRコンテンツの制作を始めたきっかけを教えてください。

テックキャンプの受講を始めた時点で、既に「コンテンツ東京に自分のコンテンツを出展する」と学習のゴールを決めていました。

と言うのも太陽企画は僕が入社する2年前からVRで出展していて、VRが世間的にまだ盛り上がっていたのでその流れでいくとVRコンテンツを作るのが自然かと考えていました。

学習を始めたのが2017年3月で、7月にコンテンツ東京は開催されるため、それまでにVRの制作フローとプログラミングの基礎を一通り学ぼうと思いました。

結果、2017年7月に無事にコンテンツ東京に出展できましたが、その際にリリースしたのがHoloLensを使って体験するMRコンテンツ「HOLOBUILDER」でした。

―― えっ!VRではないのですか?

学習を続けながら出展のネタ探しをしていたタイミングで、2017年1月にMicrosoftがHoloLensというMR(MixedReality)デバイスを発売したという情報を耳にして興味を持ちました。

ただ当時周りにMRやHoloLensを知っている方が誰もいなくて。自分でリサーチして、MR開発に取り組んでいる会社を見つけました。

それがHOLOBUILDERの製作も手伝っていただいたホロラボさんです。

―― ホロラボさんではどのようなMRコンテンツを体験しましたか?

いくつかMRコンテンツを体験させていただいた中で驚いたのが、ホロラボさんのスタッフを全身3Dスキャンしたデータが目の前のテーブルで小人サイズで生々しく踊るという内容です。

―― 話を伺うだけでも興味を引かれるコンテンツですね。

ゲームやSFものよりも人間の姿や動きなど生っぽさを残しているけれど、あり得ないサイズになって目の前に存在している違和感が今まで体験したことのない程衝撃的で「これだ!」と思いました。

その時にARやVRとは異なるMRの将来性を感じ、コンテンツの方向性が定まりました。

わずか1カ月半。HOLOBUILDERは手探りの状態で制作された

―― HOLOBUILDERとはどのようなコンテンツですか?

5枚のイラストが描かれたカード(ビル・ペットボトル・カメラ・船・ケーキ)から1枚選び、HoloLensでカードを認識すると無数の小人が出てきてそのカードに描かれている物を作る(建築する)というコンテンツです。

―― HOLOBUILDERはどのように製作したのでしょうか。

キャラクターのモデリングやアニメーションには、MayaとCINEMA 4Dを使用しました。そのアニメーションをベイクした状態でUnityに渡します。Unityで複数のアニメーションを組み合わせ制御しています。

―― 具体的に使用したツールやプログラミング言語を教えてください。

使ったのは、Maya・CINEMA 4D・Unity・Vuforia・Visual Studio・C#が中心です。

―― さきほど、7月のコンテンツ東京を目指して作ったとおっしゃっていましたが、実際の制作期間はどのくらいでしたか?

制作期間は1カ月半です。企画半月、制作1カ月です。

―― えっ、短いですね!何人くらいのチームで作りましたか?

コアメンバーは6人です。僕が企画、UXデザイン、アートディレクション、展示ブースデザイン、PV制作、フライヤー制作を担当し、3Dモデリング/アニメーション2名、コーディング+展示2名、サウンドデザイン1名です。

―― 少人数で短期間はすごい!HOLOBUILDERを製作する上で一番苦労した点は何ですか?

目標となるゴールの設定です。

当時MRのコンテンツの制作例がほとんど無くYouTubeなどで探してもなかなか出てこない、「どの程度のクオリティに達すれば、良いMRコンテンツと言えるのか」参考がそもそも無い、2017年3月の段階では僕を含めてスタッフの誰もHoloLensアプリ制作の経験がない状態からスタートしたので。だからゴールの設定は難しかったです。

―― そのような状況でどのようにコンテンツ製作を進めたのでしょうか?

とにかく制作の過程でゴールイメージや世界観をスタッフと共有することに注力しました。

小人が集団で移動するコミカルな動きなどは日清カップヌードル「hungry?」の原始人、音楽の世界観はTrainspottingのオープニングでレントンとスパッドがSPから逃げている疾走感と印象的なテンポを刻むイメージがありました。

「HOLOBUILDERはこういう世界」という到達点を共有して、そこに向かってそれぞれが考えながら進んでいくプロセスを取れたと思います。

―― わからないことに取り組むのは大変ですよね。その反面、できあがった時の喜びが大きかったのではないでしょうか?

コンテンツ東京でVR出展が200社に対し、MR出展は弊社含めて4社だけでブースには長蛇の列ができて大好評でした。

その後2018年3月アメリカのオースティンで開催されるSXSWにも出展したのですが言語・年齢・性別関係なく体験できるユニバーサルデザインを目指して制作していたので、海外の方達にもとても喜んでいただけました。

日本と海外の体験者から「凄い!」「awesome!」「cool!」という言葉を頂けたのは素直にうれしかったです。

テックキャンプの受講、HoloLensコンテンツ制作を通じて「未知のモノ」に対する恐怖心がなくなった

―― テックキャンプの受講前と受講後で一番変わったことはなんですか?

テックキャンプの受講、HoloLensコンテンツ制作を通じて一番変わったことは、「未知のモノ」に対する恐怖心がなくなったことです。

受講前はプログラミングが分からなかったので、興味はあったけれどインタラクティブなコンテンツとは距離を置いてました。

HOLOBUILDER制作中盤に体験の流れを見直している際に映像の構成を考える作業に似ていると感じました。僕は映像の構成を考える際にタイムライン上で視聴者の感情のアップダウンを折れ線グラフで考えるんです。

体験型コンテンツも体験の始まりから終わりまでのタイムラインで同じことをすれば良いという共通点に気づいて、そこを起点に次々と映像と体験型コンテンツの共通点が見つかり自分が培ってきた映像やモーショングラフィックスの経験が活かせました。


自分が取り組んだことのないジャンルでも、自分が取り組んできたジャンルとの共通点を見つけられれば、そこを起点に自分の経験が活かせるということに気づいたんです。

それにより、今までよりも経験がないことへのチャレンジはしやすくなりました。



―― MRのコンテンツを作りたいと考えている方にアドバイスをお願いします。

僕は映像制作もそうですがまずはリサーチを行います。「自分が何を作りたいのか」「世の中にはどのようなコンテンツがあるのか」についてまず徹底的に調べます。

それは自分のイメージをよりクリアにするためでもあるし、何よりも制作スタッフのゴールイメージ共有のために役立つと思います。より良い作品を作る為にはスタッフの力を貸りなければなりません。その際に、自分の頭の中のイメージをより具体的に伝えることが大事だと思います。

―― 今後の取組みやビジョンを教えて下さい。

僕は現在「TAIYOKIKAKU R&D」という部署に所属し、映像制作会社として培ったビジュアライズ、広告のように多くの人に広める為のアイディア、その2つにテクノロジーを掛け合わせた新しいビジネスの開発に取り組んでいます。

VRやMRもその一環で、メディアも増え広告のコミュニケーションも日々進化し、映像というフォーマットが形を変えつつあります。将来的にはテレビも見るだけではなく、もっとインタラクティブで双方向性のコミュニケーションが取れるようになっていくかもしれません。

時代のニーズやテクノロジーの進化に対応した幅広いソリューションを身につけ提案できるようにしていきたいと思います。

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この記事を書いた人

Kimura Hiroto
音楽・ITをはじめとするさまざまなジャンルのライティングを行っています。ITエンジニアの経験を生かし、テックキャンプ ブログでの執筆・編集を担当。好きな食べ物は豆腐。

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