クラウドコンピューティング(以下、クラウド)により、様々なITリソースが低コストで利用できるようになりました。デバイスの性能にされずに幅広いサービスが利用できることはとても魅力的です。
しかし、現在はリソースを集中させるクラウドに対して、分散させる「エッジコンピューティング」というネットワークコンピューティングの手法が注目されていることをご存知でしょうか。そこで今回は、次世代を切り拓くアプローチとして注目される「エッジコンピューティング」について詳しく紹介します。
この記事を読めば、その仕組みをはじめ、導入におけるメリット・デメリットについても理解できます。
この記事の目次
IT業界で関心が高まる「エッジコンピューティング」
クラウドと関連したネットワークコンピューティングの方法として、関心が高まるエッジコンピューティング。まず、エッジコンピューティングとはどのようなものなのか概要について紹介します。
エッジコンピューティングとは
よりデバイスに近い場所で処理する
クラウドのように遠く離れたサーバーに集中させるのではなく、サーバーをデバイスの近くに分散させるネットワークコンピューティングの方法の1つが「エッジコンピューティング」です。サーバーを分散することでトラフィックを抑えることができることはおわかりいただけるでしょう。
また、エッジコンピューティングには遠く離れたクラウドのサーバーにアクセスするよりも、応答の速度が高まるというメリットもあります。
フォグコンピューティングと呼ばれることも
フォグコンピューティングは、シスコシステムズが提唱するエッジコンピューティングと類似したネットワーク構造です。クラウド(雲)に対して、デバイスにより近い場所で広く分散して発生するフォグ(霧)をイメージして名付けられました。
フォグコンピューティングはデバイスに近い場所で処理を行ってトラフィックによる負荷を下げるだけでなく、コンピューターのリソースの分散も行って最適な処理を目指します。そのため、厳密に言うと2つは同じではなく、フォグコンピューティングにエッジコンピューティングは含まれるアプローチと言えるでしょう。
IoTの進歩への対応
インターネットとモノを結びつけるIoT(モノのインターネット)は進歩を続けています。特に製造業の分野において、人工知能を取り入れたプラットフォームの導入は生産性の向上を支えています。
このような製造業における収集したデータは、クラウドに送信して処理を行なっています。しかし、それでは間に合わないリアルタイムな処理が求められる状況に変化してきているのです。異常検知・故障の予測・生産ラインのコントロールにおいて、通信の遅れや切断がネックとなり十分な機能を発揮できなくなってきているのです。
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— 日刊工業新聞電子版 BizLine (@Nikkan_BizLine) December 4, 2017
より末端に近い場所で処理
現代では、膨大な機器から継続的にデータが集められます。そのデータをすべてクラウドで集中的に処理していたのでは、コストとスピードの面から考えても効率的ではないと言えるでしょう。
そのため、クラウドではなく、より現場に近い末端で処理するエッジコンピューティングが求められています。
ネットワークがオフライン状態になったとしてもリアルタイムなレスポンスが求められる業務、あるいは厳重なセキュリティ対策など瞬時の状況判断とアクションが求められる業務は、金融や医療、公共サービスなどあらゆる業界に存在する。
引用元:IoT時代にオンプレミスが見直される理由 カギは「エッジコンピューティング」 – ITmedia エンタープライズ
エッジコンピューティングから派生する様々なIT企業のアプローチ
エッジコンピューティングと基本的な考えかたは似ていますが、さらにそれを推し進めたアプローチについて解説します。
マルチアクセスエッジコンピューティング
特定のエリア内のネットワークの通信の効率を向上させる技術です。エリアの中にサーバーを設置。トラフィックは外に出さず、エリア内の通信は設置したサーバーで処理します。
モバイルネットワークを利用する場合は、無線網・中継網・インターネットを経由してサーバーにアクセスしてデータを取得します。しかし、マルチアクセスエッジコンピューティングを利用すれば、最もローカルに近い無線網の部分にサーバーがあるのでインターネットを経由する必要がありません。
それにより、トラフィックによる負荷の分散や処理速度の向上が実現可能です。マルチアクセスエッジコンピューティングは次世代モバイル通信「5G」で実装される技術として注目を集めています。
エッジヘビーコンピューティング
デバイスで集められる情報は量は多いですが、そのすべてにおいて情報密度が高いとは限りません。そのため、全データをクラウドに集約して処理をするのは、取得するデータが増えていることを考えると効率が良いとは言えないでしょう。
エッジヘビーコンピューティングでは、それらの処理をクラウドだけでなく、機械学習機能を持ったエッジデバイスやネットワークデバイスでも行ないます。そこから、必要な情報だけをクラウドに送信すればデータ処理の負荷やトラフィックを抑えることが可能。また、処理による遅延も抑えられるので、デバイス同士がよりスムーズに連携できるようになります。
クラウドコンピューティングについて
次に、クラウドコンピューティングの概要について解説を行い、クラウドへのリソースの集約からなぜエッジへの分散の動きがあるのかご説明します。
インターネット経由でITリソースが使えるシステム
クラウドコンピューティングとは、クラウドサービスプラットフォームにインターネット経由でアクセスして、処理能力・データベース・ストレージ・アプリケーションなどのITリソースを使えるシステムです。
Amazonの「AWS(Amazon Web Services)」、Googleの「GCP(Google Cloud Platform)」、Microsoftの「Microsoft Azure」が代表的なクラウドコンピューティングとしてあげられます。
クライアントはサーバーなどのハードウェアへの投資や設備の維持費がかからず、必要となるリソースを柔軟に利用できることが大きな魅力と言えるでしょう。
クラウドとオンプレミスとの違いとは?
クラウドと比較されることが多いオンプレミス。オンプレミスは自社内にハードウェアを設置して、ITシステムを構築します。そのため、オンプレミスは、自社運用型とも呼ばれます。
クラウドと比較するとコストが大きく、インフラの構築までに時間がかかることがおもなデメリットとしてあげられます。また、ITシステムを構築するための場所の確保も必要です。
一方で、自社内でネットワークが完結するため、セキュリティ面で安全性が高く、資産として残ることもメリットと言えるでしょう。
クラウドへの「集中」からエッジへの「分散」
クラウドはコンピューティングのリソースを集中させて、それを利用するクライアントの負荷を下げることを実現。それにより、モバイルデバイスなどのパソコンなどと性能の差がある機器においてもスムーズに高度な処理が行えるようになりました。
しかし、ビッグデータの活用や機械学習のデータ処理などが求められるようになり、それをすべてクラウドに集約することが通信回線の帯域の限界やレスポンスの速さという観点から難しくなってきています。それにより、クラウドへの集中から、エッジへの分散を行おうという動きが出てきたのです。
エッジコンピューティングを導入するIT企業のメリット
エッジコンピューティングの導入のメリットについて以下にまとめました。
トラフィックの混雑の解消
クラウドを利用する際には、インターネットを経由して世界中に設置されたサーバーを利用していることになります。これをデバイスからより近い場所で処理できれば、トラフィックの混雑が軽減します。また、通信量が減ることで、コストの削減にもつながるでしょう。
スピーディーな対応の実現
例えば、自律走行車に搭載されたコンピューターが事故の危険を回避するためには、瞬時の判断が必要となります。一瞬の判断が命取りになるシステムです。そこでクラウドと通信を行って、時間をかけて判断したのでは間に合わないでしょう。
そのような状況に対応するためには、コンピューターに近い場所でスピーディーに処理を行うエッジコンピューティングによるシステムが必要となるのです。
セキュリティに対するリスクの低下
エッジコンピューティングのITシステム下にあるサーバにアクセスする場合には、よりセキュアなネットワークの構築が可能です。インターネットを経由してクラウドにアクセスする場合には、多くのネットワーク機器や回線などを経由する必要があります。
インターネットを利用することなくネットワークを構築できれば、セキュリティに対するリスクを下げられるというメリットもあるのです。
エッジコンピューティングを導入するIT企業のデメリット
エッジコンピューティングを導入するデメリットについて以下にまとめました。メリット・デメリットを理解して、導入を検討する際の参考にしてみてください。
データの消失が発生する
エッジコンピューティングによってデバイスに近い部分でデータ処理を行い、重要性の高い情報をクラウドに送信するという方法はトラフィックの抑制や遅延の少ない処理を行う上で理にかなっています。
しかし、それは一部の情報が消失するということでもあるのです。機械学習やデータの活用という観点から考えると、それが不必要な情報ではないという可能性は考えられるでしょう。そのようなリスクがあることをを認識してエッジコンピューティングを活用する必要があります。
コストが増加する
エッジコンピューティングが利用できる環境を整えるためには、サーバーなどの設備投資をはじめ、維持や管理といったコストがかかります。そのコストとバランスが取れるビジネスモデルを生み出せるかが重要なポイントとなるでしょう。
IT企業のエッジコンピューティングへの取り組みや動きを紹介
エッジコンピューティングに対して、企業はどのように取り組んでいるのか気になる方もいらっしゃるでしょう。以下で、実際の事例について紹介します。
オートモーティブ・エッジ・コンピューティング・コンソーシアム(AECC)
インテル・エリクソン・デンソー・トヨタ自動車・トヨタIT開発センター・NTT・NTTドコモの7社が創設を目指している自動車向けのエッジコンピューティングの団体がAECC(Automotive Edge Computing Consortium)です。
ICTの機能を搭載したコネクテッドカーの実現を目指し、クラウドとエッジの機能を生かしたコンピューティングやネットワーク技術を活用したデータ通信やビッグデータの処理方法の研究に取り組んでいます。
また、コネクテッドカーの実現には、次世代セルラー通信技術「5G」による高速・大量の通信が使われる可能性が高いです。そのため、5Gに力を入れているインテルとエリクソンが参加しています。
コネクティッドカーとクラウド・コンピューティングの間で送受信される1ヶ月あたりのデータ量は、2025年には現在の約1万倍にあたる10エクサバイトに達すると予想されています。この予想は、将来、分散型のネットワークや、膨大なデータ処理が可能な大容量の計算リソースやストレージを持つ新しいシステムアーキテクチャが必要となることを意味します。
引用元:TOYOTA Global Newsroom
IT企業大手のHewlett Packard Enterprise(HPE)が約4400億円を投資
HPEはエッジコンピューティングを推進している企業の1つです。2018年6月に開催された「HPE Discover Las Vegas 2018」において、40億ドルの投資を行うことを発表しました。
実際にHPEはEdgeline EL 4000といった機能性に優れたIoTサーバーの開発を行い、エッジコンピューティングのビジネスへの導入を支援しています。
HPEの最高経営責任者(CEO)Antonio Neri氏は、同社主催のカンファレンス「Discover 2018」で、ネットワークのエッジで人工知能(AI)、機械学習、自動化を可能にするための製品やサービス、コンサンプションモデルの研究開発に投資を進めていくと語った。
引用元:ZDNet Japan
東芝のモバイルエッジコンピューティング
東芝が提唱するモバイルエッジコンピューティング。エッジコンピューティングは通常設置されたサーバーを利用します。モバイルエッジコンピューティングは、軽量かつモバイルバッテリーで搭載したデバイスを使用します。それにより、さらに「現場」に近い自由度や利便性の高いネットワークを構築しようとしているのです。
東芝は新たに「dynaEdge」というブランドをスタートさせ、すでに「DE100」というモバイルエッジコンピューティン向けのデバイスの提供を開始。東芝はモバイルエッジコンピューティングを活用したソリューションとして、グラスソリューション・オフィスのスマート化・工場のスマート化・コントローラーなどを想定しています。
エッジコンピューティングが実現するITの未来とは?
エッジコンピューティングによってどのような未来が実現するのでしょうか。エッジコンピューティングの活用が期待されている分野について解説します。
より高品質なAR・VRの体験
VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの体験において、レスポンスの速度はとても重要です。VR体験において、別の空間にいるような高い没入感を得るためには、遅延のないなめらかな映像が必要となります。また、ARによる現実とリンクした違和感のない高品質な体験を得るためにも高速な通信は欠かせません。
エッジコンピューティングによる通信速度の向上は、VR・ARといった最先端技術の品質に大きな役割を果たすことが予想されています。
スマートな自律走行車
事故を未然に回避して自動で走行を行うスマートな自律走行車の実現において、大量のデータを高速に通信できる環境は必要不可欠です。
上記のトヨタの発表によれば、2025年には自律走行車とクラウドのデータ通信のみで1日で10エクサバイトの通信量が発生するとあります。1エクサバイトは約100万テラバイトにあたりますので、そのデータの膨大さがよくわかるでしょう。
このようなデータ量の問題を解決して、スマートな走行の実現に5Gと合わせてエッジコンピューティングがとても重要であると考えられています。エッジコンピューティングによって、当たり前のように音声で自律走行車をコントロールしながら、ARコンテンツを友人と共有しながらドライブを楽しむといった未来が訪れるのではないでしょうか。
IoTで管理するロボットの生産性・安全性の向上
IoTは工業において大きく注目されている分野です。テクノロジーが搭載されたロボットの導入により、サービス・製品の提供やクライアントとの関係性が変化することが予想されています。
工場におけるロボットの動作において、クラウドからのレスポンスの遅れは安全性や生産性に関わることはおわかりいただけるでしょう。危険は発生した際に即座に停止できなければ、大きな事故につながりかねません。
そのような状況を改善するために、エッジコンピューティングやモバイルエッジコンピューティングが大きく役立つでしょう。自らのセンサーによる情報と他のロボットからの情報をリアルタイムでスムーズに共有できれば、安全性は高まります。
それと並行してクラウドにおいて「システムのパフォーマンス」「IoTデバイスからの情報」「蓄積されたデータの分析」を行うことで、それぞれの機能を生かした生産性の高いシステムの構築が可能になるのです。
新世代ロボットは、自身が備える、コンピュータービジョン、音声認識、センサーによる高度な分析などのAIテクノロジーを利用できます。また、すべてのこうしたロボットの目標は、人の環境に配備するための安全性の確保です
引用元:HPE 日本
さいごに
今回は、クラウドの未来を支える次世代のネットワークコンピューティングとして関心が高まっている「エッジコンピューティング」について紹介しました。
クラウドからエッジへと移行するというよりも、クラウドが集中されたリソースによる精度の高い分析や処理を担当し、エッジはスピーディーで負荷を分散した処理を担当するという良いところを生かしたITシステムへの変化が求められていると言えるでしょう。
エッジコンピューティングは、これからのITの進歩を支えるインフラとなるのではないでしょうか。
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