有史以来、人々は新しいテクノロジーの登場に心躍らせてきた。画期的なマシンの誕生が産業界に革命を起こし、ITサービスのいくつかは世界中を熱狂させた。
今この瞬間も、人工知能、IoT、ロボティクス、ドローンなど、これからの生活を変えそうな製品やサービス、つまりSomething Newに結び付きそうなテクノロジー関連のキーワードがあふれている。
ただ、どんなに画期的なテクノロジーがあっても、それだけでは世界を変えるようなSomething Newが生まれないということも歴史が証明している。変化を生み出す人、「ゲームチェンジャー」が必要だからだ。
では、現代のゲームチェンジャーたちは、ただのテクノロジー好きやエンジニアとどこが違うのか。ゲームチェンジャーは何を考え、どう行動し、何をきっかけにSomething Newを生み出しているのか。
それを、エンジニアでもある起業家・堀江貴文氏に聞いたところ、表層的なトレンド解説ではない本質的な答えが返ってきた。
「やっちゃいけないのは技術オリエンテッドで考えること」
―― ズバリ伺います。近年の日本におけるゲームチェンジャーの共通点は何なのでしょう。
みんなそういうことを聞きたがるけど、共通点なんてないですよ。
―― 例えば堀江さん同様、1990年代後半~2000年代初頭くらいにネットベンチャーを興した起業家たちは、当時の産業界でゲームチェンジャーとして見られていました。彼らに何か相通じるものはありませんか?
GMOインターネットの熊谷(正寿)さんはマルチメディア事業をやっていてたまたまネットに出会ったし、サイバーエージェントの藤田(晋)さんは起業の手段としてネットに出会った。僕はといえば、プログラマーとしてのバイト先でネットに出会っている。全員バラバラですよね。
―― とはいえ、あの当時はネットバブルで多くの起業家がベンチャーを立ち上げたものの、現在も残っているネット企業は数が限られています。トレンドに乗るだけで終わる人と、ゲームチェンジャーになれる人には、何か違いがあるんじゃないかと。
別にないと思いますよ。あるとしたら、商売のセンスくらいじゃないですか。
―― では質問を変えて、技術革新とゲームチェンジの関係性について伺います。今はスマホが普及し、インターネットが老若男女に使われるようになっています。加えて、人工知能やIoTのような技術も注目されている。こういった変化は、今後どんな産業にイノベーションをもたらすでしょう?
僕のメルマガ読者で似たようなことを聞いてくる人がいるんですけど、その問い自体がナンセンスなんですよ。だって、全部じゃないですか、変わるのは。
「将来どの業界が儲かりそうか」みたいな質問も一緒。そんなの、アイデアとやり方一つでどんな業界だって儲けられるでしょ? って。
―― でも、仮に堀江さんたちが起業したころに、最近流行っている「リアルタイム動画配信のサービスを作ろう」と思う人がいたとして、当時はネット回線が細くて実現不可能でしたよね。そういう意味で、技術革新がイノベーションを生むという側面は少なからずあるんじゃないですか?
じゃあ聞きますけど、そもそもネット回線が細い時代にリアルタイム動画配信でビジネスをしなきゃならない理由って何かあったんですか? あのころに動画配信サイトを作るなんて、今、タイムマシンを作ろうとするようなものじゃないですか。
やっちゃいけないのは技術オリエンテッドで考えることで。イノベーションが生まれるきっかけって、そういうことじゃないんですよ。
例えばAirbnbは、技術的にはもっと前からあってもいいサービスだった。空いてる部屋を貸したい人はいたし、知らない街で変な宿に泊まりたくないと考える人も、スマホができる前からいた。
Uberにしたって、その辺を走っているクルマに相乗りができれば便利なのは昔から同じです。だったら、今はスマホにGPSも付いてるんだし、それを使って配車と乗車のマッチングをすればいいじゃん?と考えた人がいて、Uberが誕生している。
つまり、めんどくさいことを解消するのがイノベーションのきっかけであって、テクノロジーは実現の手段でしかない。
―― なるほど。
病院の診察券なんかもそうです。病院ごとに紙とかプラスチックのカードを発行するけど、あんなの真面目に全部持ち歩いていたら財布が埋め尽くされますよね。本当にバカバカしい。
だから僕が、「個人を特定できるデジタルなIDを付与して、どの病院でも使えるようにしたらいいのに」って言うと、大抵の日本人、99.9%の日本人は「それくらい我慢しろよ」となる。論理的な理由なんて何もないのに、「診察券を持ち歩くのは当たり前だ」と思ってる人の方が多いから。
そういう“自称常識人”たちが、すごいテクノロジーを駆使したって、イノベーションは生まれないじゃないですか。
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iPhoneとGoogle Glass、Apple Watchの違いに見る「変化のきっかけ」
―― 分かりました。では、テクノロジーとイノベーションの関係について、違う視点で伺います。iPhoneは携帯電話の世界にゲームチェンジを起こしましたが、Google Glassは今のところ世界を変えるまでに至っていません。両方とも優れたテクノロジーの結晶として誕生したのに、なぜiPhoneは世界を変え、Google Glassはダメだったのでしょう?
Google Glassは、『Newton』みたいなものだから。Newtonって知ってます? 昔、Appleが作っていたPDAで、通話機能のないスマホみたいなものです。
あれなんて、遅いしバッテリーは持たないしで、全然普及せずに終わりました。ただ、あれから20年くらい経って、やっと使えるようになったのがiPhoneなんですよ。
―― 「スマートフォン」という一大産業を創り出したiPhoneも、過去の失敗の延長線上に生まれたものだと?
それと、「小さなコンピュータ」を「スマートな電話」と言い換えることで、普通の人にも使い方がイメージできたんでしょうね。あと、iPhoneではLINEみたいなキラーアプリが生まれて、一方のGoogle Glassには生まれなかったという点も関係している。
―― 逆に言えば、iPhone単体ではここまで爆発的に広まらなかったかもしれない。
そう。ただ、こういう話は全部結果論で。未来がどうなるかなんて、誰も分からないでしょ? だから、こうすればゲームチェンジが起こせるんじゃないとか計画を練ったってしょうがない。「もっとこうなったらいいのに」、「こっちの方が絶対便利なのに」という思いに忠実になって、数打つしかないんです。
今のところ不評なApple Watchだって、意外と普及するかもしれないわけで。