今年発売されたiPhone XS・XRが対応したことで、注目度が上がっている「eSIM」。
今回は、「eSIMにはどの様なメリット・デメリットがあるのか」「日本国内での対応状況はどの様になっているのか」などを紹介。
また、気になるeSIMの今後の動向についても解説します。
この記事の目次
iPhone XS・新型iPad Proも対応したeSIM
今年発売されたAppleの新型端末iPhone XS・XRとiPad ProはeSIMに対応しています。なおeSIMを利用するには、iOS12、そしてQRコードAppまたはeSIMに対応した通信事業者が提供している専用アプリが必要です。
また異なる2つの通信事業者を利用するには、iPhoneにかかっているSIMロックの解除が必須です。
iPhone XS・XRからデュアルSIMに
これまでHuaweiやASUSなどを中心に対応されてきたデュアルSIMですが、実は今年発売されたiPhone XS・XRはこのデュアルSIMに対応しています。
ところが、SIMカードを挿す事ができるのは1枚だけで、もう1枚を挿すためのスロットは用意されていません。実はもう1つのSIMは「eSIM」なのです。
これは新しいタイプのSIMカードなのですが、私たちが知っているSIMともAppleがこれまで採用していたApple SIMとも異なります。eSIMは端末に埋め込まれる組み込み型SIMです。
Appleの製品で最初にeSIMを導入したのは、2017年9月に発売されたApple Watch Series3が最初でした。それまでのApple WatchはWi-FiまたはBluetoothでiPhoneと接続することで通信を行う事ができるようになっていましたが、Series3からは単独でモバイルネットワークに対応したモデルが登場。
eSIMはiPhone XS・XRでApple製品にいきなり登場したわけではなく、これまでもその活用が模索されていたことがよくわかるでしょう。
新型iPad ProもeSIM対応
そしてAppleは他の端末にもeSIM搭載を進めています。例えば2018年に発売された新型のiPad Proがそうです。新型の11インチモデルと12.9インチモデルの両方とも、Wi-Fiモデル以外にデュアルSIM対応のeSIM搭載モデルを出しています。
Apple SIMとeSIMの違いについて
ではこれまでのApple SIMとeSIMとは何が違うのでしょうか。まず、Apple SIMはAppleの独自仕様で、世界標準の規格ではありません。それに対しeSIMはGSMA標準で、世界共通の仕様です。ですので、eSIMは今後世界の各通信業者がこぞって対応するようになると予想されます。
もちろんeSIMは良いことばかりではありません。Apple SIMの場合は初期設定時に通信で繋がっていなくてもキャリア選択ができますが、eSIMの場合はWi-Fiなどでネットワークに繋がっている必要があります。というのも、内蔵されているeSIMへキャリア情報を書き込む際に、ネットワーク経由で行う必要があるからです。
Apple SIMは独自仕様で、eSIMはGSMA標準で世界共通の仕様という点が大きく異なります。
iPhoneのeSIMは日本では使えないので注意
では、このiPhoneに搭載されているeSIMの対応状況はどうなっているのでしょう。残念ながら2018年11月時点では、eSIMは日本国内で正式対応しているキャリアがありません。Appleの発表会でもeSIMに対応した国内キャリアの名前はありませんでした。
日本の大手キャリアは現状対応していない
iPhone XS・XRではnanoSIMとeSIMの両方を搭載したデュアルSIMです。
そのため、NTTドコモ・au・ソフトバンクという3大キャリアと契約していれば、eSIMにもう一つ別のキャリアを指定することでデュアルSIM端末として利用できると考えがちです。ですが、残念ながら現時点では日本の大手キャリアはeSIMに対応していません。
eSIMは、海外出張の際に現地のキャリアと契約して利用するという使い方以外はできないというのが現状です。
ソフトバンクは対応を予定
現状は対応していませんが、ソフトバンクは対応を予定していると発表。
ドコモは「お客様のニーズをみて決める」としており、auは「ハードウェアとしてはDSDSに対応はしているが、eSIMについては何も決まっていない」としています。
ただし、ソフトバンクが対応すれば、ドコモもauも追随する可能性は十分にありえるでしょう。
MVNOの対応状況については、後ほどIIJのeSIM対応について詳しく紹介します。
eSIMサービスを提供しているのは10カ国
現時点でeSIMに対応したサービスを展開しているのはどこの国でしょうか。
現在は、10カ国で提供されています。アメリカ・カナダ・イギリス・ドイツ・スペイン・オーストリア・ハンガリー・チェコ・クロアチア・インドです。
それぞれ、1社から最大3社のキャリアが対応しています。日本のキャリアもeSIMに対応することを期待しましょう。
eSIMとは
ではeSIMとはどのようなものでしょうか。以下で、SIMやeSIMについて説明します。
まずSIMとは何か
そもそもSIMとはなんでしょう。携帯電話(いわゆるガラケーやスマートフォン)の中に入っている小さなカードで、「Subscriber Identity Module(加入者認識モジュール)」の頭文字を取って「SIM」カードと呼ばれています。SIMの中にはIMSI(International Mobile Subscriber Identity)と呼ばれる固有の番号が登録されていて、このIMSIと電話番号を結びつけることにより通信ができるようになっています。
SIMカードはサイズによってSIM・microSIM・nanoSIMの3種類があります。現在の主流はnanoSIMになってきていますが、基本的にどのサイズでも保持している情報は同じです。
固有のIDと利用者を紐付けるSIMを差し替えることで、新しい端末でも同じ電話番号を使うことができます。
eSIMは組み込み型SIM
eSIM(embedded-SIM)はSIMの一種ですが、差し替えの必要なSIMとは異なります。
eSIMは、端末への組み込み型のSIM。つまり、基本的にはこれまでのSIMと同じ機能を持っているのですが、差し替えが不要になったわけです。
差し替え時に指紋が付かないか、静電気で情報が壊れたりしないかと心配する必要がなくなります。SIMカードが届くまで、端末が使えないということもありません。
eSIMについて詳しく知りたい場合には、下記のGSMAのWebサイトがとても参考になります。
携帯電話情報の書き換えができる
eSIMは、携帯電話情報の書き換えができる点が大きなポイントです。
SIMが使われる前にも電話番号情報を端末のロムに書き込むタイプの端末が存在しました。それと異なるのは、ショップで専用の端末を使って書き換える必要なく、ユーザーがキャリアを自分で選んで書き換えができる点です。
現状のnanoSIMカードなどは、キャリアと紐付いています。そのため、異なるキャリアに乗り換えた場合には、SIMの差し替えが必要。MVNOもソフトバンク・NTTドコモ・auといったインフラを持つ大手キャリアの回線を借りているので、同じように差し替えが発生します。
eSIMのメリット
ではeSIMにはどんなメリットがあるのでしょうか。そのメリットを紹介していきましょう。いくつかありますがここでは3点を紹介します。
SIMカードの差し替えが不要
まず何と言っても、SIMカードの差し替えが不要になる点でしょう。これまではキャリアを変更すると、新たなSIMカードを発行してもらい、それが届いたらSIMカードを差し替えるという作業が必要でした。MNPの場合はMNP番号発行後2週間以内に差し替えを行わなければ古いSIMは使えなくなりますし、「郵便トラブルで届かなかったらどうしよう」と筆者もドキドキしながら新しいSIMの到着を待ったものです。
でもeSIMであれば、ネットで新しいキャリアと契約して、情報を端末にダウンロードすれば終わりです。
eSIMは回線の即切替ができ、タイムロスがありません。SIMカードが届くまでにドキドキする必要もありません。
1台で仕事用とプライベート用の番号の使い分けができる
すでに格安スマホを使っている人には当たり前の機能になりつつありますが、1台の端末で2つの電話番号を持って同時に待受ができるDSDS(Dual SIM Dual Stundby)機能がiPhoneでも使える様になります。
1台のスマホでさまざまな作業をこなしていた人からすると、仕事とプライベートを分けられるのは経費精算の面でも楽になります。スマホを分けるために2台持ちしていた人は、これが1台で済むようになるのはうれしいポイントではないでしょうか。
また、1つのeSIMに複数の携帯電話情報が登録可能である点も特徴です。これにより、最適なキャリアに自動変更するという事が可能になります。現在Googleが提供する「Project Fi」というマルチキャリアMVNOサービスがありますが、これは海外に行った際に、eSIMに登録されている現地のキャリアに自動的に切り替えてモバイルネットワークに接続できるサービスです。
さらにApple Watch Series3以降では、Apple WatchのeSIMがiPhoneのSIMの携帯電話情報をシェアできるようになっています。
海外でプリペイドSIMを買う必要がなくなる
Project Fiを利用しなかったとしても、海外に行く際にプリペイド式のSIMを購入する必要がなくなります。
eSIMの場合は、到着したら対応するキャリアのプロファイルをダウンロードするだけだからです。これまでは渡航時に現地のキャリアが発行するSIMを購入し、端末のSIMと差し替える必要がありました。その手間がなくなります。
場所によっては繋がりにくくなるため、どこのキャリアが良いのかを気にしていた方もいらっしゃるでしょう。それが手軽に選択できます。また、リペイド式であるが故の通信量上限も気にしなくて良くなります。
eSIMのデメリット
これまでメリットを紹介してきましたが、もちろんデメリットもあります。ここでは2点を紹介しましょう。
日本ではまだ使えない
何と言っても日本のキャリアが対応に消極的な点でしょう。特に大手キャリアの動きは遅いです。理由は簡単で、ユーザーが好きなときに自由にキャリアを乗り換えることができるからです。
日本の大手キャリアはユーザーの確保と維持を行なうために、さまざまなアプローチを行ってきました。そのため、簡単に乗り換えが可能なeSIMには、できれば対応したくないというのが大手キャリアの本音ではないでしょうか。
アクティベートが対応端末のみ
それでもNTTドコモはdtab Compact d-01JにeSIMを導入しています。でもこれは端末組み込み型ではなく、従来のSIMカードにeSIMの機能を持たせた、「カード型のeSIM」なのです。
eSIMの機能をアクティベートできるのは対応端末のみで、このSIMを他の端末に差し替えることはできません。
今後のeSIMの動向について
それでも少しずつ日本の状況も変わりつつあります。これまでの対応状況と、これからの動向についてまとめてみましょう。
日本では2017年からサービスがスタートしている
実は日本でもeSIMに対応し、すでに使われている端末はあります。それはNTTドコモが出しているAndroidタブレット「dtab Compact d-01J」です。2017年5月25日に発売されています。
またeSIMを搭載した端末としてはASUSの2in1パソコン「Transformer Mini T103HAF」や、Microsoftの「Surface Pro LTE Advanced」などがあります。
スマホでの本格展開には時間が必要
スマホへの本格展開には、時間が必要でしょう。まず、スマホがeSIMを搭載しなければなりません。また、大手キャリアのeSIMへの対応が、重要な要素となるからです。
iPhone XS・XRが先行していますが、MAYA SYSTEMが買収したFREETELがeSIM搭載端末を開発中という情報が入ってきています。
実のところMVNOにはeSIMプラットフォームの運用に必要なコアネットワークが、ソフトバンク・NTTドコモ・auといったMNOから開放されていないために、乗り出すことができないという事情があります。
そのため、eSIMの日本での普及は、大手キャリアであるMNOの動き次第というところがあるのです。
eSIM対応のポケットWi-Fiが増えている
とはいえ、eSIM対応のポケットWi-Fiは増えて来ています。現在ではMAYA SYSTEMがレンタルを手がけている「jetfi G3」をはじめ、「WorldTouch」「G3000」などが国内でも動作する端末として購入可能です。eSIMは海外渡航時に便利に使えるというところがユーザーに受け入れられているのでしょう。
ウェアラブルやタブレットから人気が高まる可能性
スマホではまだまだ動きのないeSIMですが、スマートフォンと連動するウェアラブル端末から人気が出るかも知れません。
Apple Watchのために、もう一つ携帯電話の番号を取得するのはもったいないと感じる方もいらっしゃるでしょう。そのような場合に、iPhoneと共通の番号をeSIMで利用できると便利です。
同じく、現在は「同時利用プラン」などで割引のあるタブレットも、スマートフォンとおなじ番号を利用できれば利便性が高まるでしょう。
まずは、ウェラブル端末やタブレットからeSIMに対する需要が高まり、スマホにサービスが拡大していく可能性が考えられます。
IIJがeSIMプラットフォームを提供予定
最後にMVNOサービスを提供する大手企業「IIJ」の動きを紹介しましょう。同社では2019年春にeSIMでの接続サービスを提供予定で、すでに実証実験を終えています。
その動作検証の際に使用したのはMicrosoftのeSIMを内蔵した「Surface Pro LTE Advanced」です。この端末にIIJのSIMカード相当のプロファイル情報をダウンロードを行ない、アクティベートをしてネットワーク接続を確認しました。
IIJのフルMVNOの重要な課題がeSIM
IIJはフルMVNOとして、2018年にサービスを開始。そのIIJのフルMVNOの重要な課題がeSIMです。
フルMVNOとは、通信事業に必要な「無線設備」「コアネットワーク」「料金プラン」「顧客管理」「ブランディング」「販売」のうち、「無線設備」以外を独自で展開するMVNOの事を指します。
これまでのMVNOは、販売・ブランディング・顧客管理・料金プランなどについては独自で行ってきました。しかし、「コアネットワーク」と呼ばれる部分をMNOに依存していたため、SIMカードの発行に必要な加入者管理機能(HLR/HSS)についての自由がありませんでした。
eSIMサービスを行うには、独自でSIMを発行して加入者管理機能の部分をMVNO側でコントロールする必要があります。IIJはフルMVNOの提供を行なってコアネットワークを管理。それにより、eSIMのサービスの提供をいち早く行ない、IIJは他社との差別化を図ろうとしています。
サービス開始は2019年春予定
IIJはフルMVNOに対応したことを受け、2019年春に「Surface Pro LTE Advanced」などを対応端末を対象としたeSIMサービスを開始予定です。
発表されたばかりの法人向けタブレットPC「Surface Go LTE Advanced」もeSIMを搭載しているため、IIJのサービスの対象となるでしょう。残念ながら、iPhone・AppleWatchへの対応は未定です。
また、IoT機器はeSIM対応端末が中心になってくると考えられます。特にSIMの差し替えが困難な定点センサや車載の組み込み機器などはeSIMの独壇場になりますので、ここも大きなビジネス領域だと捉えているでしょう。
MVNOのeSIMの対応に注目
IIJをはじめ、今後のMVNOのeSIMの対応に注目しましょう。
eSIMがMVNOでも使えるようになれば、普及が加速すると予想されます。
IIJの動きを皮切りに、大手キャリアもeSIMへの対応を検討するでしょう。IIJのeSIM向けサービスがiPhoneに対応すれば、その動きはさらに加速すると考えられます。
■日本の大手キャリアのeSIMへの対応がポイント
まとめ
iPhone XS・XRに搭載されたことで、注目されるようになったeSIM。
大手キャリアの動きは鈍いもののIIJが2019年春にサービス開始を予定しているなど、日本国内でも盛り上がりつつあります。
しかし、これからはウェアラブルデバイスやタブレットを皮切りに、さまざまな端末がeSIM対応してくることによって、業界全体が大きく変化してくるでしょう。またIoT分野でもeSIMは重要な技術になると考えられますので、今後はさらなる注目が必要です。
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