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2026.06.22
ブログテックキャンプが就労支援事業を立ち上げた理由
はじめに
ご覧いただきありがとうございます。テックキャンプ就労移行スクール(以下、TCS)の片渕と申します。実は私自身も、発達障がい(ADHD)の当事者でもあります。
2024年にテックキャンプの社内ベンチャーとして発達障がいの方に特化した就労移行支援事業を立ち上げ、現在その事業責任者を務めています。この記事では、私がこの事業を立ち上げた背景にある「原体験」と「施設のコンセプト」をお伝えしたいと思います。
※この記事はオープン前にnoteで公開した内容のリライト版になります
当事者の原体験:家族との別れ
父のアルコール依存と離婚
私が育った家庭に発達障がいがどんな影響を及ぼしたかをお話したいと思います。
私は佐賀県の田舎で三世帯の7人家族で育ちました。小学校の高学年になるまでは平和な家庭で伸び伸び暮らしていたと思います。

しかし、穏やかな日々は長くは続きませんでした。
起業に失敗した父がアルコール依存症になってしまったのです。
小学校6年生くらいになった頃でしょうか。父は突然「起業する」と家族に宣言して勤め先を退職し、内装業で起業したのですが、数週間もすると廃業に近い状態になり、ずっと家にいるようになりました。
気づくと昼間からお酒を飲むようになり、数ヶ月もすると、父は立派なアルコール依存症になっていました。家では両親の言い合いが増え、父が暴れて家の壁に穴が空いていたのを覚えています。
母は経済的に自立していたこともあり、私が中学生になったのをきっかけに両親は離婚し、父方の家族とは別の場所で暮らすようになりました。
父から伝えられたこと
離婚によって生活は一時的に穏やかさを取り戻しましたが、その日々は突然終わりを告げました。
ある日、声が聞こえたので部屋を出て行くと、父が玄関に立っているのです。父の姿を見て「なにか危害を加えられるかもしれない。いざとなったら自分が家族を守らないと」と思ったのを覚えています。
ただ、父もすごく消耗しているように見えました。見るからに生気がないのです。やつれきったような顔で、彼はこう口にしました。
「じいちゃんが自殺した」
聞いた時は目の前が真っ暗になり、視界がグラグラと揺れました。気づくと父に向かって「お前のせいだ!」と叫んでいました。
当時の私の怒りと動揺は相当なものでした。20年以上経った今現在も、よく祖父のことを考えます。おじいちゃんにとって初孫だった私が、彼にとって誰よりも大事だったように、彼は私の最愛の家族だったからです。
毎年5月になると鯉のぼりを上げてくれて、手づくりの竹とんぼをつくってくれる器用なおじいちゃん、お酒を飲むと暴れることもあるけど、普段は誰より優しく接してくれました。
その大好きなおじいちゃんは自ら命を断つという形で突然いなくなり、そのことがきっかけで精神的に落ち込み、中学校も不登校に近い状態になってしまいました。
否定が理解に変わる時:発達障がいの診断を受ける
私はそれから長い間、父を否定する気持ちで生きてきました。
「父は心が弱い怠け者だった。もし働き続けていれば、おじいちゃんは今も生きていたはず」と考え、「自分は絶対に父のようになりたくない」という嫌悪に近い気持ちを持っていました。
それが変わったのは社会人になってからしばらくして、自分が父と同じような状況に追い詰められた事がきっかけでした。当時の私は父と同じように、仕事(新規事業立ち上げの激務でした)に適応できず「仕事をやめたい」と思っており、辛さから逃げるためにお酒を飲むような状況になってしまったのです。
自分が同様の状況にいる以上、父を責めることはできません。そしてその気持はすぐに、「自分も父親といっしょだ。生きていても、人に迷惑をかけるだけだ」という自己否定に繋がっていきました。
うつ傾向が続き、病院に駆け込んだ時のことです。
医師に仕事の状況について話したところ、発達障がい(ADHD)の検査を勧められ、受けてみるとすぐに診断がおりました。
正直なところ、大学時代から特性の自覚はあったため驚きはありませんでしたが、「障害者」として自分をカテゴライズすることに抵抗があり、診断を避けていたのです。
そして、医師は続けて私にこう伝えました。
「発達障がいは遺伝する場合もある」
「アルコール等の依存症の原因になりやすい」
それを聞いた私は、こう思ったのです。
「父も発達障がいだったのかもしれない」
父と祖父の両方ともアルコール依存傾向があったこと。ギャンブルや起業などの衝動的な行動が多かったこと。考えるほどに「発達障がいの遺伝」という仮説は自分の中で説得力を増していきました。
その考えを得たからといって、すぐに父を許すことはできませんでしたが、他者の行動にある背景を理解しようとする視点が生まれたのはこの時でした。

人を支援する中で許しが生まれた
今現在、父を責める気持ちはありません。「父親も大変だったはず」と、共感する気持ちが生まれています。
自分自身が同じ生きづらさを抱えてきたことに加えて、ADHDコーチングの資格をとり、対人支援をするようになって、父を責める気持ちは自然と薄らいでいきました。
支援経験を積めば積むほど、課題行動の原因を「心の弱さ」と単純化するのは間違っていると考えるようになったからです。
今は父のアルコール依存は感情論ではなく、発達特性と環境の関連性の中に生まれていたと捉えています。
そして自分が支援者として活動する中で、強くこう思うようになりました。
「当時、父の相談に乗れる発達障がいの支援者がいたら、祖父は今も生きていたかもしれない」
今も日本中に同じように、発達特性が原因で困難に直面している方がいらっしゃいます。当事者でもある自分が事業として立ち上げることで、その状況を変えられるんじゃないか、そう思ったのが、この事業を立ち上げた最大の理由です。
TCSが大切にしている3つのコンセプト
ここからは、2年間の実践を通じて確信した、TCSの「3つのコンセプト」をお伝えします。
1. 発達障がい支援の専門家がいる
ひとつめは、相談に乗れる発達障がい支援の専門家がいるということです。
経験上、当事者として一番困るのは「発達障がい支援の専門家が周りにいない」ということでした。現状、一説では10人に1人とも言われる発達障がい者(グレーゾーンも含む)の人口に対して、明らかに専門家の数が少ないのが現状です。
私は米国のADD COACH ACADEMY(ADDCA)で認定資格を取得し、ADHDをメインとした発達障がいの方を対象に「発達特性と共に生きる技術を身につける」事を目的としてコーチングを通じた対人支援をおこなってきました。
以下はクライアントさんからいただいた声の一部です。
(掲載許可をくれた皆さん、本当にありがとうございます)
「コーチングを受けるようになって、朝が起きれるようになって、そしたら瞑想もしたくなって、ちょっとずつ家をととのえることも、やらなきゃというよりきもちよくできるようになってきた」
「(衝動買いについて)今までの私だったら100%購入していました。この種の衝動性を抑えられたのは初めてです!!! コーチングを通じて自分の性質を深く知ることができたので、我慢できたのだと思います」
「この3ヶ月を振り返って、どれだけ変化したかということ、それにまだまだ課題はあるけれど〜(中略)自分の特性自体は変わらなくても、それを加速させる暮らし方、減速させる暮らし方があると気づけたことも大きな発見でした」
「コーチングって本当に大きな可能性を秘めているのだなぁ、本質的な「支援」のかたちだなぁと実感しているので、就労支援の現場で活用されるってめちゃくちゃ素晴らしいアイディアだと思いました」
【クライアントさんとのやりとり(原文ママ)】
専門的技能を身につけたコーチの対人支援をきっかけに、発達特性の生きづらさが解消することは十分に可能です。スクールでも高い技術水準のコーチを育成・配置し、本質的な支援を実施しています。
2. PC初心者でもITスキルが身につく
ふたつ目の提供価値は、PC操作初心者でも雇用の安定に繋がるITスキルが身につくことです。「テックキャンプは未経験からでもIT専門職に就けること」を提供価値としてカリキュラムを作っています。
そしてTCSでも、テックキャンプで使用しているカリキュラムをそのまま就労移行支援の現場で展開しており、通常は高額な内容をほぼ無料で学習いただけます。
この実績あるカリキュラムがあるからこそ、2024年4月のオープンから2026年3月までの2年間で22名が就職を達成し、就職後半年間の定着率は90%を超えています。
実際に卒業生の皆さんは、身につけたITスキルを活かして、以下のような多様な職種で社会で活躍しています。
・ITエンジニア / 社内SE
・ITスキルを活かした一般事務職
・データ分析職
・業務効率化を推進するDX人材
経済産業省が推進する「ニューロダイバーシティ」の取り組みでも示されている通り、ADHDやASDなどの発達障がいの方の特性は、デジタル分野の職種に適していると言われています。
私たちはこの強みをさらに活かすため、生成AIなど時代の急速な変化に合わせて、カリキュラムを常に最新のものへとアップデートし続けています。
これまでテックキャンプが培ってきたITスキルの教育力によって、発達障がい当事者の方の経済的な安定を実現していくこと。これもまた、私たちの事業ビジョンの重要な一部です。
3. 安心できるコミュニティがある
最後です。「障がい者施設」という言葉から、どんな場所をイメージするでしょうか。
静かに作業する場所、スタッフに見守られる場所——そういうイメージが先行することは珍しくありません。私たちが目指しているのは、それだけではありません。
TCSは、障がい者施設だけど、それ以上のもの——コミュニティでもあります。
良ければ、下記の歌を聴いてみてください。
▼ キャンプソング(動画)
これはスクールで生まれた「キャンプソング」のプロモーションビデオです。私が作詞とビデオの監督を担当しました。手書きの絵をアニメーション化したこの映像の原案は、発達障がい当事者である利用者さんの落書きから生まれました。当事者の表現が、そのままスクールを象徴する作品になっています。
動画の主人公は、職場でうまくやれず孤独を抱えたロボット。テックキャンプにたどり着き、仲間と焚き火を囲み、「君はすごい」「僕もなかなか」と伝え合い、スキルを得て、自信を持って社会へ歩き出します。
このストーリーは、当スクールで実際に起きていることそのものです。
発達特性のある方に一番必要なのは、「ここにいていい」と思える場所だと私は考えています。失敗しても責められない、不得意があっても否定されない。そういう安心感の土台があってはじめて、人は挑戦し、学び、成長できる——そう信じています。
受講生同士がお互いの特性を知り、認め合える関係を築けること。それがTCSのコミュニティが大切にしていることです。
我々がつくりたいのは単なる「障がい者施設」ではなく、皆さんが安心して自分を表現できる、所属感を感じられるようなコミュニティです。

おわりに
ここまでお読みいただいて本当にありがとうございました。
以下、まとめです。
■テックキャンプ就労移行スクール(TCS)のコンセプト
1. 発達障がい支援の専門家がいる
2. PC初心者でもITスキルが身につく
3. 安心できるコミュニティがある
特性についていつでも専門家に相談でき、発達特性を活かして学ぶことで、雇用の安定に繋がるITスキルが身につく。そんな場所が、今、福岡にあります。
もし少しでも気になった方は、ぜひ一度見学にいらしてください。どんな場所なのか、どんな人たちがいるのか、実際に来て感じてもらうのが一番だと思っています。
最後に、この記事を読んで「自分も動いてみようかな」と感じている方へ、私自身が背中を押してもらった言葉を贈ります。
"Take the first step in faith. You don't have to see the whole staircase, just take the first step"
「信念を持って最初の一歩を踏み出すんだ。登っていく道の全体像をはじめに理解する必要はない。まず最初の一歩を踏み出すことだ」
— Martin Luther King Jr
皆さんと教室でお会いできるのを楽しみにしています。
株式会社div テックキャンプ就労移行スクール事業責任者 片渕一暢